出版社内容情報
《訳者あとがき》より
なるべく多くの読者を《私の『戦争と平和』》の殿堂に迎え入れたいと思う。偽りの謙遜なしに言って、それは読者に、漱石のいわゆる還元的感化を及ぼす筈だと思う。もしもその読者が、すぐれた文学に対して縁なき衆生でさえなければ。もともと『戦争と平和』から読者の喜びを汲み取ることは、読書人としての最高のランクに立つことであって、あるいはそれは、選ばれた《精神の貴族》のみに与えられた特権かもしれない。しかしもともと万人は、精神の貴族たり得るし、精神の貴族であるべきではないであろうか?(一九七九年四月)
著者等紹介
北御門二郎[キタミカドジロウ]
1913年熊本県球磨郡湯前町に生まれる。1933年東京帝国大学英文科入学。1936年ロシア語勉学のためハルビンに渡る。1938年徴兵拒否、東大も中退する。以来、球磨郡水上村湯山で農業をしながらトルストイの研究、翻訳に生涯をかける
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感想・レビュー
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Tai
26
自由に意識的に自分のために生きると思っている無数の人々の暮らしが合体し、歴史的意義を帯びてしまい、歴史的な操り人形となって織りなすうねりがボロジノの戦いまで来た。崇高な理想に生きると思ってたピエールは一転怠惰に彷徨っている。自由と思いきや全く身動きがとれず雁字搦めな状況、宿命と思わざるを得ない理不尽さ、この後の事は歴史として知っているが、この時代を生きた登場人物達はどうなっていくのか。悲壮感漂うナポレオン、ロシア側も勝利と言えない惨状。210年経った今日、ロシアはウクライナに侵攻してしまった。2022/02/22
zoros
9
アンドレイ公爵が好き。長い話だけれど読むのをやめようとは思わない。 ロシアの自然の描写がとてもいい。2020/05/12
山口透析鉄
5
基本的にはメロドラマなんですが、黒澤明監督の「七人の侍」の元ネタらしいですし、トルストイの代表作なのは間違いないんでしょうね。 ただ、個人的にはこの頃より晩年、日露戦争に反対したりしりいていたトルストイの方が好きですね。日本人とドイツ語やフラン語とかでも手紙をやりとりしていたようで、ETV特集でそんな番組、見たことがありますよ。1989/08/05
とまと
5
当然だが、話が進むにつれて面白くなり、読む速度も早くなる。場違いなピエールはどうなったのだろう?/主題について考えるだけでなく、(勿論主題に無関係ではないが)この登場人物が好き・嫌い・憎らしい等々を楽しみながら読む、他人と感想を言い合う時にもそれについて話すという楽しみ方も大いにありやんね。因みに私は魅惑的で愛らしく描かれているナターシャに入れ込んでしまい、ピエールに同情し、アンドレイと共に傷つき、アナトーリを憎んだのですが、他の方はどうでしょう。その辺の話をしてみたいようなそうでもないような。2012/07/05
bandil
4
タイトルが「戦争」そのもののだけではなく「心の中の戦争と平和」の意味も込められていたかと気付いた中巻。五十年代後半~60年代前半にハリウッド英語の描写でよく使われていた「スペクタクル」という言葉は本作にこそ最も当て嵌まろう。これだけの長さを退屈させないどころか、先を読ませたい気持ちを起こさせ続けるとは恐れ入る。著者の「歴史家跣(はだし)」の下調べの成果にも脱帽。そして、忘れてはならないのが翻訳の素晴らしさ。奇跡の本だ。では、下巻へ向かいます。2019/10/02