出版社内容情報
ノーベル賞作家ハン・ガンが3回読んだ本:「しばらく外国にいたとき、この本を1日いちど、3回読んだ。毎日読んでもいい本」
日常がシャッターを下ろすように中断されると知った時に……残ったのは「愛」だった。
『朝のピアノ』は、キム・ジニョン先生が天に召される三日前、意識混濁状態に入る直前まで、メモ帳に書き留められた生の日記です。
〈雨降りの日、世界は深い思索に濡れる。そんなときは、世界が愛を待つ気持ちでいっぱいだということを知っている。わたしがどれほど世界を愛しているかも〉
〈もっと長生きしなければならないのは、もっと生きながらえるためではない。後回しにしてきたことに対する義務と責任を遂行するためだ〉
内容説明
日常がシャッターを下ろすように中断されると知った時に…残ったのは「愛」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
16
死期の近いことを自覚して日々綴られる哲学者の断章は、次第に軽やかに穏やかになっていく。「私は愛の主体である。だから私は愛することを知らないのではないだろうか」という逆説は、主体であることをやめざるを得ない病者ならではの洞察であろうか。川に流されるようにままならない病状の変化の中で、自身はもはや主体ではなく、それでも主体ではないことの意識は明晰で、そこで気づくのは他者との関係あるいはハーモニーの中で生かされている自分であり、そのような他者との関係においてこそ愛が生まれるのだという発見であったのかもしれない。2025/06/14
いくえ
4
美学者キム・ジニョン氏が亡くなる三日前まで書き留められていた日記。 物事を考察したり、短い文章を深読みしたりするのはとても苦手なわたし。でも結局最後に残るのは、とてもシンプルなものなんやなあと思わされる。季節の美しさ、身近な人の愛や心の強さ。 「TVを見る。誰もが、すべてのものが、永遠に生きるかのように人生を送っている。」 どんな風に生きて、どんな風にこの世を去るのか、最近よく考える機会があるので、大切に大切に読みました。またきっと読む。2025/04/28
Qfwfq
4
2018年、66歳で亡くなった哲学者/美学者キム・ジニョン教授が、癌闘病の末意識が消える三日前まで13ヶ月にわたって書き綴ったスワンソング。ここにあるのは、死に向かいつつある者の絶望や悲痛などではなく、常に朗らかさを保ち続けようとした者による省察と慰めの記録だ。もちろん、そこには痛み、不安、悲しみも含まれるのだけれど、難解な思想や哲学だけではない、自身の内から溢れ出てくるどこか温かなものが散文となって連なっていて快い。ハン・ガン氏のように毎日、とまではいかずとも、折に触れてページを開きたくなる希望の書だ。2025/05/01