内容説明
山谷労務者O氏の「生活と意見」。ドヤの臭いと騒音、露骨な仕事の奪い合い、外国人就労者や過激派の組合活動など、山谷の人間模様を実感的・省察的に綴った「現代の方丈記」。第9回開高健賞受賞。
目次
山谷のドヤ街でベッドハウスの住人になった
昭和三十年代なら私は生きられなかっただろうと思っていたのだ
塚本さんがいなくなった
身体の面倒を見なければならぬことに気づき、散歩を始めた
「あなた、可哀相な人」と外国人就労者に言われた
人生を総括して少しもおかしくない年齢になった
著者等紹介
大山史朗[オオヤマシロウ]
1947年生まれ。69年大学卒業ののち、サラリーマン生活、工員生活などを経て、87年より山谷で建設作業員。本書で第9回開高健賞を受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ジョニーウォーカー
8
ホームレスの間でもっとも下に見られる行為とは“食物を漁ること”だという。どんなに底辺といわれる社会においても、人は他者との優劣にとらわれる生き物らしい。東京・山谷のドヤ街で15年以上にわたり日雇労働者として生活する著者の言葉には、自らが身を置く世界を美化するでも、過剰に悲観するでもない、冷静な穏やかさがあった。それにしても「入浴をしない人の体臭は1週間~10日で最初のピークをむかえ、1ヵ月を過ぎると無機的な“漂う異臭”となる」にはまいった…すごいリアルだ(笑)。2009/04/12
とうゆ
6
一昔前の山谷の雰囲気が知れて良かった。 バブルの崩壊以降の話を読んだ時、不景気は底辺から来る、というブレイディミカコさんの言を思い出した。 ホームレス覚悟で生きていたこの作者は、今どうしているのだろうか。2020/08/09
Yasutaka Nishimoto
5
今年の読み納め。開高健賞受賞の本書は山谷のドヤ街に十数年という著者が、そこでの仕事の得方から簡易宿泊所での暮らしまでを生々しく描いているのだが、文章が素晴らしく書ける人のため、装丁をそれなりにすれば相当売れたのではと要らぬお世話を考えてしまう。読み終わるのが惜しく、もう少し浸っていたかった世界観。素材からは想像できない名著。2016/12/31
Erika Ushiyama
4
ホームレスであることを自然に受けとめ、むしろ選択し、ありのままを素直に描いている。素朴な文体は、読みやすいし、人間としての本質的な部分をよく見ていると思った。当事者視線だから、新鮮で興味深い本だった。2014/11/10
つちのこ
2
ホンモノの山谷労務者が書いた本。これを読むと、山谷に暮らす人の生様を断片的にも知ることができる。ドヤの臭いや騒音、仕事の奪い合い、労務者からホームレスへ転落していく人間模様…。著者は社会の底辺に生きていることをしっかりと認識しながらも、社会矛盾を言い立てることもなく、山谷に深く根づいている。忍び寄る老いに、行き着く果てのない暗闇に転落していくことの不安を口に出してしまう弱さも見せる。諦めの境地に達した人の乾いた文体には、ある種の崇高さをも感じずにはいられない。(2000.8記)2000/08/19