内容説明
人びとは、あの金色に輝く亜麻のように、その人生の布を綾織ってきた。無告の民の営々とした暮らしが人間の歴史を作ってゆく。東アルプスの小さな村Maria Luggau。そこに沢蟹のようにひそやかに生きた人びとの600年の歳月がある。この物語はその人びとへの敬虔なる讃歌である。そしてまた、私たちが必ずしもヨーロッパを知ってはいないことを知らせる。何を食べ、何を着て、どこに住んでいるのか? かれらは家族を愛しているか? このいとしきものに幸いあれ!
目次
アルプスの谷間に声が聞こえる。
ヨゼファおばあさんの半生と時代―だいじょうぶ。夜中にはだれも飢え死にしないんだよ。
世紀を越えて―テレジアおばあさん―台所では肉も壁も天井も、人間だって燻されちまった。
女と仕事―亜麻の咲き輝いて花嫁あり。
ザーラッハ・600年の歳月―ご先祖さまはどうしてこんな高い所に家を建てたのだろう。
1960年代・進歩への懐疑―いまの時代が悪いと言うのではない。しかし、昔尊かったことが、いまは打ち消されてしまった。
村人となったクリスチーネ先生―この村の人はよく言えばしっかり、悪く言えば頑固。
ふたりの貯金“ボルツァーノ”―畑に麦が立っている間は踊ってはいけない。
元ナチス親衛隊員フランツの挫折と再起―森へ呼びかけると、そのようにこだまが戻ってくる。
そうだ、それがわれわれの人生だった。