出版社内容情報
受賞作「棕櫚を燃やす」(野々井透)と最終候補3作品をすべて収録。選評(荒川洋治、奥泉光、中島京子、津村記久子)と受賞者の言葉なども掲載。
内容説明
受賞作「棕櫚を燃やす」(野々井透)と最終候補3作品をすべて収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぷく
16
時間をかけて美しい結晶ができていく過程を眺めているような、とても静かで深い時間だった。死にゆく父の輪郭は日を追うごとにぼやけ、一方で、三人の、いや、「しろい手の人」も含む家族としての輪郭は際立ち、誰にも侵すことのできない領域は濃密になっていく。色もにおいもかたちも、生きづらさもすべて抱えてあまさず暮らす。その切なる姿に涙が溢れる。棕櫚を燃やす、容赦のない行為だ。燃え盛る火の勢い、時折り爆ぜる樹皮。目を逸らしたらこの一瞬は跡形もなく消え去ると言わんばかりに燃え盛る棕櫚を見つめる三人。神々しさを感じる。 2023/06/04
Jessica
2
受賞作よりも最終選考作「異邦の人」(周詩恩)に惹かれ、色々と考えさせられた。親の都合によって簡単に引っ越し、育つ国を変えられる子供。自分の育った根っこごと引き抜かれて無理やり植え替えられそこで育たざるを得なくなったとき、見た目だけは成長したように見える本体はどうなってしまうのだろうか。涙を見せないことは、結局泣いていないということなのだろうか?アイデンティティの確立の問題はこれからもっと国際社会の移動が増えていく中でもっと知られてもいいテーマなんじゃないかなと思う。2022/10/08