内容説明
「折り入って相談したいことがある。できるだけ早く会いたい」親友フランツがスイスで謎の死を遂げて三カ月、未亡人となったカオルからのメールには言いよどむ気配があった。駆けつけるとそこには幼い娘が一人きり。いぶかるタカオの携帯に見知らぬ男から電話が入る。「奥さんの身柄は、フランツさんが所有していた絵と交換としましょう」その絵とは、ルネサンスの巨匠が遺した未発見の真筆。やむなくタカオは少女を連れて、まだ見ぬ名画の捜索に乗り出した―罪なき一枚の絵画が、時を超え、土地を変え、罪なき人々の運命を狂わせる。翻弄されているのは、人なのか美術品なのか。現代における「本物」の意味を問うスリリングなアートミステリー。
著者等紹介
梶村啓二[カジムラケイジ]
1958年、兵庫県生まれ。作家。著書に『野いばら』(第三回日経小説大賞受賞、日経文芸文庫)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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chimako
74
ルネッサンス時代のフィレンツェ、ナチ統制下のヨーロッパ、そして現代の日本。希代の画家が描いた幻のヴィーナス、そのモデルとなった少女と画家の時間、ヒトラーの手先となりそれを見つけた学芸員、それを保管していると思われる家族と友人。時空を越えた物語は、時代と絵画のうんちく満載。叙情的な文章が美しい風景と厳しい状況を余すところなく描き出す。誰のこと?何?いつのこと?拙い読み手が翻弄されながら必死で食らいついた後半、何もかもが腑に落ちる瞬間があった。そして、案内人カサネの正体。ボッティチェッリの絵をみたくなる。2020/11/29
まさ
26
時代、時間の展開が目まぐるしく、1章ごとに整理しながら読みました。もちろん、おもしろい。16世紀のフィレンツェ、現代のベルリンや瀬戸内-。ボッティチェッリの絵画の真贋を巡る旅でした。1枚の絵画に翻弄される人々、変わりゆく世の中にあって、変わらずに留めるもの、本物は、裏庭で描かれる素描にあるのかも。画家(働き手)も発注者(権力者)に合わせて作風が変わっていくのなら、どの時代でも真摯に生きていることこそアートなのだろう。2022/06/04
あーびん
26
16世紀のフィレンツェ、第二次世界大戦下のフュッセン、そして現代のベルリンを舞台にしたアートミステリー。政権や戦争の影響で優れた美術品は収奪され、また保護されてきた。美術の歴史は権力の歴史でもある。親友の不審死によりその家族とともになすすべもなく事件に巻き込まれていく主人公のスリリングな展開とボッティチェッリのもう1枚のヴィーナスをめぐる歴史がドラマティックに絡み合う。最近美術品複製における最先端技術について読んだばかりだったので、そのあたりについて触れられているのも面白かったです。2020/07/22
takaya
25
美術好きの人には、大変興味深く読める本です。史実にフィクションの要素が巧みに織り込まれ、どんどん引き込まれていきます。しかし一番素晴らしいのは、文章による描写力。言葉の使い方の見事さは、小説を読む醍醐味を十分に堪能させてくれます。おススメです!2020/06/14
rosetta
23
★★★★✮凄く端正で文体も詩のようで読んでいて気持ちのいい音楽を聴いているようだった。最近死んだ親友フランクの残された妻カオルと娘カサネ。カオルを人質に取り、フランクが祖父から受け継いだボッチチェリの未発見の絵を持っている筈だから渡せと迫ってくる闇のトレーダー。タカオはカサネを連れてまだ見ぬ名画を探す旅に。1510年の死んだボッチチェリに語りかけるメディチ家の召使いと1942年のフランツの祖父エルンストの告白の手紙を挟み、美の下僕となった者たちの軌跡を辿る。9歳のカサネが妙に老成していると思ったら…良作2019/09/28