内容説明
定年退職を契機にひとり息子一家と同居する「私」夫婦の、老いを迎え、死を身近にする平凡な日常生活を通して、現代の家族の風景を重層的に鮮やかに描く。連作短篇集七篇。
目次
半日の放浪
断橋
家族の虚実
木彫の雛
雪吊り
菖蒲まつり
桜紅葉
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いちの
4
私の父は今、この主人公と同じくらいの年齢。たまに会うと「歳を取ったな」と感じて少し寂しくなる。だから主人公が齢に抗うような言動をしたりプライドを見せるとき、読んでいてちょっと辛かった。一方で奥さんに心を開いている様子なのは良かった。季節の移り変わりを堀切菖蒲園の花の様子で実感させる。この小説の象徴としてとても大切にされていると感じた。2020/07/25
COPPERFIELD
3
「銀座に鰯料理を専門に食べさせる店がある」という、文学史上稀に見る地味な書き出しから始める、地味な傑作。 なんと、古井由吉の伝説の小説『仮往生伝試文』と、読売文学賞を分け合っているのだ。 個人的に再読必須の一冊です。
seijyun
0
定年後、人間関係のしがらみに捉われるともったいない。家族、わずらわしいけどなくてはならないもの。会話文が地の文に溶け込む手法にまったく違和感を感じない。叔父の存在が物語に深みを与え、嫁の実家の宇和島が広がりを与える。2012/06/10