内容説明
神話の次元によらねば回復しえない人間精神の内的宇宙にたいする本質的な探求心が山口の人類学の根幹にはあった。この、始原を「いま」に召喚しつづける想像力の原型が、近代科学の認識論における時間軸上に展開する「歴史」意識といかに切り結ぶかを考える作業に、山口の仕事の一つの大きな部分が費やされた。それは、過剰に「歴史化」された言説の倫理主義的性向が、思考の闊達な膂力に制動をかけているいまこそ、再読されねばならない。この巻には、始原と現在をアクチュアルに結ぶ、歴史への詩学的アプローチをめざす傑作論考を収録する。
目次
歴史・祝祭・神話(鎮魂と犠牲;革命のアルケオロジー)
失われた世界の復権
歴史と身体的記憶
ミシュレあるいは歴史の宴
オクタビオ・パスと歴史の詩学
周縁性の歴史学に向って
足から見た世界
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白義
15
政治や歴史が深層に秘める象徴性、祝祭性。それらを取り出し再演するように語る、カーニバル論、他者から見た歴史エッセイが中心。歴史が排除した他者、生け贄たちや現在の日常性を支えるものとしての神話的始原の方から読者の通念を揺さぶり、再び神話の時空、スケープゴートたちがかき乱した祝祭の時空に連れ戻すような迫力のある文章揃い。山口昌男の筆にかかるとキャスタージル・ド・レやトロツキーをめぐるロシア政治史まで、供犠を中心にした一種の文化記号論的カーニバルとして解釈されていく。今福龍太の解説も的確な名文だ2012/05/15
梟をめぐる読書
7
徹底した合理主義の浸透によって近代から「失われた」神話的領域の存在が山口氏の筆によって明るみに出されたとき、世界の「再聖化」の試みとしてシュルレアリスムの運動が、〈周縁〉的なものへの「異化」の作用を語ったものとして澁澤龍彦のエッセイが、単なる「反時代」のレッテルを超えた次元で初めて捉え直される。神話的祝祭の再演の場としての「政治」に寄せたスターリンとトロツキーの闘争論は、実際に「排除のカタルシスの達成」としての政権交代を二度も経験してしまった今だからこそ、実感的に理解できたのかもしれない。2012/12/26