内容説明
二〇世紀初め、毒を撤き散らす悪女として恐れられた患者の実話。エイズ、鳥インフルエンザなど、伝染病の恐怖におびえる現代人にも、多くの問いを投げかけている。
目次
第1章 物語の発端(事件以前のメアリー;チフス患者の発生 ほか)
第2章 公衆衛生との関わりのなかで(腸チフス;チフスと戦争 ほか)
第3章 裁判と解放(法的な問題;「チフスのメアリー」の露わな登場 ほか)
第4章 再発見と、その後(自由になって;恋人の死 ほか)
第5章 象徴化する「チフスのメアリー」(一般名詞化するメアリー;勝ち馬に乗る歴史 ほか)
著者等紹介
金森修[カナモリオサム]
1954年札幌市生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。パリ第一大学哲学博士。専門は科学思想史・科学史。筑波大学、東京水産大学(現、東京海洋大学)を経て、東京大学大学院教育学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
72
自覚症状はないのに突然、病原菌をまき散らしているとされ病院に閉じ込められたら。多くの新型コロナ陽性者が同じ目に遭っているだろうが、加えて死者が出たため毒殺者扱いされたら。解放を求めれば大騒ぎになるに違いない。メアリー・マローンはそんな立場に立たされ、後半生を隔離されて過ごさねばならなかった。1世紀前の出来事だが、当時の人びとを笑えない。現代でもひとりの人権や自由よりも大多数の安全安心こそ大切という世論の前に、人権擁護派も沈黙するだろう。コロナの致死性が高ければ、世界はメアリーたちであふれていたはずなのだ。2020/10/06
♡ぷらだ♡お休み中😌🌃💤
65
新型コロナウイルスの感染拡大を受け緊急復刊ということで手にとった。約100年前のニューヨークで、腸チフスの無症候性キャリアであったために、50人近くの人を感染させたメアリー。離島に25年余り隔離された生涯を追う。本書は「社会に住む不特定多数の人たちの命を救うためなら、1人の人間、または少数の人間たちの自由がある程度制限されても仕方のないことなのか」と問いかける。個人の自由と全体の福祉とをどのように調停したらいいのかが難しい。ちくまプリマー新書は学生対象に書かれたシリーズなので簡潔で非常にわかりやすかった。2020/05/22
こばまり
51
公衆衛生上の観点から個人の行動が制限されるのは、withコロナの時代を生きる我々には理解できるが、未発症のキャリアとして20世紀初頭を生きたメアリーの混乱は如何ばかりであったかと思う。これまでアイコンとしての存在であったが初めてその人生を知った。2023/08/27
くさてる
42
まさにいま復刊されたのも納得の内容。腸チフスの保菌者であり、有能な料理人でもあったメアリーという女性の生涯は、公衆衛生と人権という問題を真っ向から見据えた内容になっている。本人は健康で生活に不自由ない保菌者は社会でどう生きるべきだったのか。大きな問題の中に飲み込まれてしまう個人の尊厳とは。大事な問題を扱うのにふさわしく冷静な語り口ですが、ジュニア向けの本でもあるので、分かりやすく読みやすいです。おすすめです。2020/05/13
ネギっ子gen
40
2006年初版だが、コロナ渦の今こそ読むべきかと。20世紀初め、毒を撒き散らす悪女と怖れられた米国・女性の実話。<その女性は、料理がとてもうまい人だった。子どもの面倒見もよく、雇い主からは信頼されていた>。だが、彼女は腸チフスという当時とても恐れられていた病気に罹ってしまったうえ、彼女が作る料理によって、それを他人に感染させていると、周りの関係者は判断し彼女を隔離。それから30年以上も彼女は生きるのだが、残りの人生の大部分を、一種の隔離状態の中で生きていかねばならなかった。“チフスのメアリー”と呼ばれ。⇒2020/07/25