出版社内容情報
他人との関係を切り捨てるのでもなく、自分と異なる考えを否定するのでもなく――「正しさ」とは何か、それはどのようにして作られていくものかを考える。
内容説明
「正しさは人それぞれ」といって他人との関係を切り捨てるのでもなく、「真実は一つ」といって自分と異なる考えを否定するのでもなく―考え方の異なる者同士がともに生きていくために、「正しさ」とは何か、それはどのようにして作られていくものかを、さまざまな学問のこれまでの議論を概観したうえで考える。
目次
第1章 「人それぞれ」論はどこからきたのか(普遍性を偏重する西洋文明;相対主義的な考え方の始まり ほか)
第2章 「人それぞれ」というほど人は違っていない(言語相対主義;基本の色彩語 ほか)
第3章 「道徳的な正しさ」を人それぞれで勝手に決めてはならない(人類普遍だからといって「そうするのが正しい」ということにはならない;「道徳的な正しさ」についての私の考え方 ほか)
第4章 「正しい事実」を人それぞれで勝手に決めてはならない(「事実は人それぞれ」と主張する人たち;ものの見え方は人それぞれでない ほか)
著者等紹介
山口裕之[ヤマグチヒロユキ]
1970年奈良県生まれ。徳島大学総合科学部教授。1999年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。2002年博士(文学)学位取得。専門はフランス近代哲学、科学哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
133
「正しさは人それぞれ」か「真実は一つ」かを考察する味わい深い一冊。哲学の歴史を踏まえた論考を中心として、倫理学、言語学、経済学、心理学、文化人類学、生物学、社会学、科学の知見が総動員されて、知的にとても楽しい。「みんな違ってみんないい」と「何でも感じ方次第」という現代の風潮への著者の危機感が、本書の背景にある。各論に対して、八方美人的な解説ではなく、著者の見解が明示されていることもフェアである。バランスの取れた結論は、概ね納得しうるが、ただ数学・物理学の実在論を否定していることについては、私は異論がある。2022/09/01
breguet4194q
121
プリマー新書としては、ちょっと難しいと思います。前半は興味を持てる内容ですが、後半は哲学的な内容が占め、失速する感じでした。正しさは、「人それぞれ」でも「真実は一つ」でもなく、それに関わる人々が合意することで作られる。という主張はわからない訳ではないですが、各論的に展開した主張は、果たして本当にそうなのか?と首をかしげる部分もありました。本のタイトルから感じ取ったイメージとはズレた内容で、ちょっと残念な読後感でした。2022/10/26
樋口佳之
67
世の中には、両立しない意見の中から、どうにかして一つに決めなければならない場合があり/一人でなければ晩ご飯のチョイス一つとったってそうだもの/「こないだまで高校生だった目線」で原稿の読みにくいところやわかりにくいところを指摘してもらい…「たぶん、高校生が読んでもおもしろいと思います」と言ってくれたので、たいへん安心…/大学の先生も色々頑張っておられるのだなあと。新しい実在論に触れている部分は関連書既読が必要かと感じましたが、プリマーらしく論旨は明快です。意外にフォイエルバッハテーゼ思い出したりもしました。2022/08/27
おたま
64
現在「正しさは人それぞれ」とか「みんな違ってみんないい」、「価値観は多様化している」ということがよく言われる。そうした「相対主義」に対して、権力者や力のある者が、力任せに異論を切り捨てることにつながってくるのではないかとの著者の危惧から問題は設定される。しかし、かと言って「真理は一つ」「客観的に正しい答えがある」とする「普遍主義」に対しても懐疑の目を向ける。著者はそうした両者を乗り越えるために「共同作業によって「正しさ」は作られていく」という考えを提案している。これはシンプルながら、重要な論点だと思う。2023/07/21
future4227
56
2023年中学入試では東農大一、田園調布、東邦大東邦、豊島岡女子、洗足学園などで出題された。「みんな違ってみんないい」という言葉が独り歩きしてしまい、誤った解釈を元にゆがんだ価値観が蔓延するのではないかと警鐘を鳴らす本。集団生活を営む以上、みんながある一定の価値観や社会的制約の中で生きていく必要がある。その中で正しさを決めているのは多数決の論理。ただ、様々な立場や考え方の双方が話し合い、妥協点を見出し、お互いが納得することが大切。個性尊重と独善的行動を混同してはいけないと自戒しなければと思った。2023/10/31