出版社内容情報
〈重力〉をめぐる関係性の転換こそが、普遍必然的で自己完結した自然認識としての力学を形成した。上巻は、ケプラーからオイラーまでを収録。
内容説明
私たちが自明としている力学的世界観の成立には、古典力学と古典重力論にもとづく天体力学、とりわけ“重力”概念の確立が大きな影響を与えている。本書は、“重力”理論完成までの思想的格闘の足跡を原典に則して丹念に辿りつつ、誤りや迷いといった紆余曲折までも含めて詳らかにする。先人の思考の核心に「同時代的」に肉薄する壮大でドラマチックな力学史。上巻は、ケプラーにはじまり、ガリレイ、デカルトをへてニュートンにいたる力学方程式確立の歴史、オイラーの重力理論までを収録。
目次
第1章 重力とケプラーの法則
第2章 重力にたいするガリレイの態度
第3章 万有引力の導入
第4章 “万有引力”はなぜ“万有”と呼ばれるのか
第5章 重力を認めないデカルト主義者
第6章 「ニュートンの力学」と「ニュートン力学」
第7章 重力と地球の形状
第8章 オイラーと「啓蒙主義」
第9章 オイラーの重力理論
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーくん
95
ケプラーの楕円軌道の衝撃に始まり、ガリレオの慣性、そしてニュートンによる万有引力。『プリンキピア』を公にし、重力を数学的かつ実証的な近代物理学の土俵に登らせたニュートンだが、遠隔力は<隠れた性質>だという批判に答えられなかった。重力の原因は機械論的に説明されなければならぬとするデカルト主義者の批判。重力は神の「深慮と支配」とするニュートン。そして「解析学の権化」オイラーは自ら解析学を発展させて力学に適用、ニュートンの力学を煩わしい幾何学的様式から解き放つ。古典力学形成の紆余曲折を丹念に追っていく充実の書。2021/09/17
やいっち
73
著者は、「科学史家、自然哲学者、教育者、元学生運動家。駿台予備学校物理科講師。元・東大闘争全学共闘会議代表」という方。吾輩が大学生になった頃には、学生運動は終息しかけていたが、当時は、同氏のことを英雄視していた。在野にあって科学史などの研究に携わってこられた。文系の頭の吾輩には数式は歯が立たないが、本文は分かりやすい。どうやら本書は著者の処女作のようだ。2021/04/21
南北
45
古典力学が重力をどう捉えてきたかについて、ケプラー、ガリレイ、ニュートン、デカルトの考えを丹念に追っている本。古典力学が一直線に発展してきたのではないことがわかる。ニュートンにとって重力の原因は「遍在する神」であり、デカルトにとって重力を伝える物質である「エーテル」が宇宙空間に充満していると考えていた。現代から見るとバカバカしいように見えても当時としては真剣に考えられたものであることがわかって、知的好奇心を刺激してくれる内容になっている。下巻も続けて読んでいきたい。2021/05/14
maqiso
5
ケプラーは精密な観測を元に3法則を発明し、同時に神秘的な思想からすべての物体にはたらく重力を提唱した。機械論的自然観の強いガリレイは加速度は認めても遠隔力は認められなかった。スコラ哲学に対抗して演繹的で完成された体系を作ったデカルトには理論と現象のすり合わせは重要ではなかった。デカルト主義者に批判されたニュートン派は重力の理由付けに苦労し、重力に神を見いだす宗教家もいたが、ニュートンの理論は現実をよく説明したためパラダイムとなり、オイラーに至って哲学者でない物理学者が現れるようになった。2021/12/21
The pen is mightier than the sword
4
久々に科学史に触れ楽しめた。ケプラーからガリレオ、ニュートン、オイラーまでの物理学の発展を思想との関わりを含めて説明。物理学の課題である重力の根拠を巡り、神の存在に対する自然科学の位置付けが変わってきたことが説明される。以前は、説明しきれないことは神の仕業にして説明するのが当然だった。この時点からは現象を元に仮説をたて、数学を使って演繹的に理論を完成させるようになり、神の存在に頼ることなく解決できることが多くなった。古い勢力が新しい考えの科学者を糾弾するが、長い年月をかけて科学が一人立ちする。4472021/06/07