出版社内容情報
3本立て、入替無し、飲食持込み自由、そんな映画館を愛した著者が綴った昭和のシネマパラダイス!文庫オリジナル・アンソロジー。解説 荒島 晃宏
内容説明
街のあちこちに映画館と酒場があったあの頃。3本立て、終日入替無し、もちろん全席自由、持込み飲食OK!たまに意外な小動物も出没…。コミさんの愛称で知られた著者が、今日もバスに乗り、弁当を買って、映画館の暗がりに潜り込む。終われば酒場へゴー!映画と酒への思いがあふれるエッセイを選んだ、ちくま文庫オリジナル・アンソロジー。
目次
1 昭和三十年代末頃…(契ろうてや、ちぎろうてや!;下着のつけ方にこまかな心づかい ほか)
2 昼間は映画夜は酒…(昼間は映画夜は酒ほかになにかすることがあるの;二条朱実よ、ふつうのをやろう ほか)
3 ガード下の映画館…(目がさめると、明日になる;ガード下の映画館 ほか)
4 昭和末年前後…(池袋の映画館;上野の映画館 ほか)
著者等紹介
田中小実昌[タナカコミマサ]
1925年東京生まれ。東京大学文学部哲学科中退。バーテン、香具師などを転々とする。J.H.チェイス、R.チャンドラー、C.ブラウンの名訳で知られる。1979年「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」で第81回直木賞、同年『ポロポロ』で第15回谷崎潤一郎賞を受賞した。2000年2月アメリカで客死(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kinkin
100
コミさんこと田中小実昌のエッセイ集。バスに載って新宿や浅草で一杯ひっかけ、時には沈没(酔いつぶれ)したりして、2本立てや3本立ての映画館にふらりと入る1970年から80年代にかけて雑誌や本に掲載されたものをまとめた本。コミさんの書いた『ポロポロ』など好きな作家だ。気取って文芸映画ばかりでなくB級映画や日活ロマンポルノなのが楽しい。シネコン全盛の今、入れ替えなし途中入場ありの名画座はもう絶滅したかもしれない。きれいではなかったけどあの頃の映画館は好きだなあ。ロマンポルノもまた観たい。^^2023/03/06
まこみや
52
奇妙なことに、コミさんのエッセイを読んでいると、茨木のり子の詩を思い出した。言うまでもなく現実の二人は外見にしろ生活にしろ対照的といってもいいくらいだ。凛とした潔さに対して飄々としただらしなさ。しかし作品を通して窺える精神的な姿勢では、二人は意外と近いような気がしてくる。茨木はかつて「自分の感受性くらい自分で守れ」、「もはやいかなる権威にも倚りかかりたくはない」と詠った。あてどなく漂っているコミさんもまた、自分の感受性は自分で守り、権威に倚りかからず生きる姿勢は、気ままに一貫していたように見えるのである。2023/12/14
Tatsuhito Matsuzaki
14
東大哲学科を中退し、バーテン、香具師等を転々とした後、作家&翻訳家として活躍し、2000年に滞在先のアメリカで客死した田中小実昌さんのエッセイ集。 表題は映画館と酒が記されていますが、大部分は氏がバスに乗って通った映画と登場人物の批評がメイン。 昭和の馨りと風景が感じられるちくま文庫オリジナルのアンソロジーです。 #銀座 #浅草 #鶴見 #自由が丘 #早稲田 #南千住 #川崎 #新宿 #蒲田 #三軒茶屋 #池袋 #荏原 #映画 #酒 #バス #今日の一冊2023/05/13
オールド・ボリシェビク
7
コミさん、良いなあ。誰に媚びることなく、ただ自分のやりたいことをやっている。すなわち、映画を見ることと、酒を飲むこと。1970年代末から90年代初めごろの時代背景もまた、良いな。雑然とした、それでいてどこか猥雑としたエネルギーが街そのものに漂っていて、コミさんはただ、その波に乗って漂っているだけだ。ぐだぐだとした、知った風の映画批評をしていないのも良い。そこにある規準は面白いか、つまらないか。それだけ、時代は単純であった。しかし、それで良いではないか。時代なんてそんなもんだろ。2023/03/15
コオロ
4
「エッセイ」と分類されているケド、かなり「日記!!」という感じ。映画代はおろか飲み代まで記録されていて、それこそ家計簿のついでに書いたメモっていう感じ。でも、そういう生活感が滲み出ているから、権威ある人のはずなのに偉ぶったり賢ぶったりしている印象がなく、近所をうろつく変なおっちゃんの話のようなテンションで読める。読んでいる間、映画は高尚なもの、といった主張はまったく読み取れなかった。とても痺れる。かくありたい。終章でようやく知ってる名前がぽつぽつ出てきて、ああ、時代が変わったんだな、としみじみ感じるなど。2024/03/11
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