出版社内容情報
心を病んだ人が、絵を描くことで生きのび、描かれた絵に生かされる──。生きにくさの根源を照らし、〈癒し〉の可能性をさぐる希望の書。解説 堀江敏幸
内容説明
精神科病院・平川病院にひらかれた“造形教室”。ここでは心を病んだ人たちが、アートを通じて、自らを癒し、自らを支える活動をしている。絵を描くことで生きのび、描かれた絵に生かされている―。4人の作家の作品と人生をつぶさに見つめ、“生”のありかたを考え、“生きにくさ”の根源を照らしだす。こうした思索のなかで“癒し”の可能性をさぐる希望の書。
目次
はじまりの章
第1章 “癒し”とあゆむ(安彦講平)
第2章 “病い”をさらす(本木健)
第3章 “魂”をふちどる(実月)
第4章 “祈り”をちぎる(江中裕子)
第5章 “疼き”をほりおこす(杉本たまえ)
まとめの章
あとがき さりげなく、やわらかな言葉のために
著者等紹介
荒井裕樹[アライユウキ]
1980年東京都生まれ。二松學舎大学文学部准教授。専門は障害者文化論、日本近現代文学。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。2022年、「第15回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はっせー
59
頭の咀嚼力をとても使う本であった。アートと癒しについて考察した作品。舞台としては東京八王子にある造形教室。ここで作品として紹介されている人はみな精神疾患を患った人である。あくまでも作品を作る場のため治療として絵を描くわけではない。むしろ自分の中にあるものと向き合い、その後絵を描く。なにか目的があって書くわけではない。本書で書かれている文章がガラスのような言葉であった。見て見ぬふりをしてきた現実を突きつけて来る感じであった!2024/08/27
たまきら
39
新刊コーナーから。創造されたものからその人が伝わってくるーそれが芸術の素晴らしさでもあり恐ろしさだと思うんですが、ここでは傷ついた心をなだめ、癒し、慮るものとしてのアートの可能性が紹介されています。そのアートの素晴らしさも、このようなやさしい言葉で紹介されているからこそその諸刃の刃のような痛みを伴う世界を、他の世界に生きるものへ伝えられたのだと思います。素晴らしかった。2023/01/28
練りようかん
14
苦しくつらい心の内側をアートで表現する意味や可能性を考える一冊。芸術活動を続けた四人の事例紹介。病苦・障害苦・差別の中で生きてきた彼らの痛みは言葉で伝えようとすると零れ落ちてしまうものがあり、それを掬うのが絵だ。心の病とはその人を取り巻く関係性にある、という指摘が非常に強い印象を持つ。自由に安心して描ける環境こそ癒し。特に実月さんの表紙を含めた四作品は、抱えてきたものとともに並べて見るとはっきりと捉えられる解放と開放があり、何度も見返した。堀江敏幸氏の解説で“繊細な再定義”と書かれていてこれだ!と思った。2025/02/28
ネムル
11
「もしかしたら、私たちは「精神病者」のアートに対して、社会の冗長化した常識を打ち破る程度に斬新なものであることを期待する一方で、安全や秩序を乱さない程度に無害であることも求めているのかもしれません。あるいは、普段は理解不能なものとして警戒したり疎外したりしながら、ときおり目新しく面白いものとして都合よく珍重してきたものだともいえると思います」に、ぐさり。芸術鑑賞の手引きにも、障害者文化やひととの関係性にも、射程の広い一冊。2023/09/07
ありたま
4
アートと癒しの関係についてはずっと考えているの非常に参考になった。2023/09/27