出版社内容情報
心を病んだ人が、絵を描くことで生きのび、描かれた絵に生かされる──。生きにくさの根源を照らし、〈癒し〉の可能性をさぐる希望の書。解説 堀江敏幸
内容説明
精神科病院・平川病院にひらかれた“造形教室”。ここでは心を病んだ人たちが、アートを通じて、自らを癒し、自らを支える活動をしている。絵を描くことで生きのび、描かれた絵に生かされている―。4人の作家の作品と人生をつぶさに見つめ、“生”のありかたを考え、“生きにくさ”の根源を照らしだす。こうした思索のなかで“癒し”の可能性をさぐる希望の書。
目次
はじまりの章
第1章 “癒し”とあゆむ(安彦講平)
第2章 “病い”をさらす(本木健)
第3章 “魂”をふちどる(実月)
第4章 “祈り”をちぎる(江中裕子)
第5章 “疼き”をほりおこす(杉本たまえ)
まとめの章
あとがき さりげなく、やわらかな言葉のために
著者等紹介
荒井裕樹[アライユウキ]
1980年東京都生まれ。二松學舎大学文学部准教授。専門は障害者文化論、日本近現代文学。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。2022年、「第15回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たまきら
38
新刊コーナーから。創造されたものからその人が伝わってくるーそれが芸術の素晴らしさでもあり恐ろしさだと思うんですが、ここでは傷ついた心をなだめ、癒し、慮るものとしてのアートの可能性が紹介されています。そのアートの素晴らしさも、このようなやさしい言葉で紹介されているからこそその諸刃の刃のような痛みを伴う世界を、他の世界に生きるものへ伝えられたのだと思います。素晴らしかった。2023/01/28
ありたま
3
アートと癒しの関係についてはずっと考えているの非常に参考になった。2023/09/27
サトゥルヌスを喰らう吾輩
2
芸術と〈癒し〉について。安易な功利主義にも理想化にも流れず、じっと考えつづけることで功利主義/理想化的価値論への反立もはたしている。そういう本だと思いました。「いじめられ、虐げられている人に、アートは何ができるか」という問いにたいして「『アートとは、知識と教養とスキルをそなえた特別な人間が生みだすもの』ということを暗黙の前提としており、『特別な存在であるアーティストは、いじめられ、虐げられている人たちに何をしてあげられるのか』が問題とされているのです」とその「上から目線」を内省する姿勢に誠実さを感じます。2023/04/07
バーニング
2
著者の本をまだ読んだことがなくなんとなく文庫新刊コーナーで見て手にとったが、精神障害者の芸術活動の歴史とその場を提供した病院の取り組みの一端を知れたのは良かった。著者にとっての障害者文化論3部作のラストという位置付けのようなので、さらに前の著作も手にとってみたい。2023/04/03