出版社内容情報
伊藤 朱里[イトウ アカリ]
著・文・その他
内容説明
元職場の女子会で恵那は恋人に娘ができたことを知らされる。かつての父との出来事や、異性装の親友メリッサに救われた大学の飲み会、保育園で誤解を受けた保護者との関係、自身の女性性をもてあまし、生きづらさを抱える恵那の支えとなっていた恋人の裏切りを知り、自暴自棄となった恵那が伸ばす手の先にあるものは―。第31回太宰治賞受賞作がついに文庫化!
著者等紹介
伊藤朱里[イトウアカリ]
1986年、静岡県生まれ。2015年、「変わらざる喜び」(「名前も呼べない」に改題)で、第31回太宰治賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mayu
21
2作収録。表題作は不倫相手に子供が産まれて、絶望して仕事も辞めてひきこもる恵那。自分の想いが伝わらないことへの八つ当たり。どこまでいっても相手の気持ちではなく、自分の気持ちばかり。大切にしてくれる親友さえも傷つけ、幻を映し出して悲劇に浸って自分を追い詰める姿や可笑しくもないのにヘラヘラと笑う姿はどこまでも痛い。もう一作品はベットの下に居場所を求める美波が主人公。両作共に幼い頃の家庭環境がトマラウとなり重くのしかかり人生を狂わせる。なにが起こる訳じゃないのに、いつ終わるだろうとずっと息苦しい読書だった。 2022/10/04
seba
18
自分の周囲で起きた不和に対し、その原因が本当に自分にあったか否かを客観的に正しく認められることで、疲弊せずに生きていくことができるのだと思った。自分のせいではないと無責任に開き直ることがあっても、多少であれば、精神を健全に保つ上ではむしろ良いのかもしれない。全ての責を自分に帰する思考が危うい。表題作は、読みにくさのある地の文が人物誤認をもたらしたため驚かされた。だがそれは読者の私が楽天的な外野だからだろう。親友さえも傷付けた彼女の、安易な共感や同情を拒む声が聞こえてきて始末の悪さを感じた。終わり方は好き。2024/05/21
蜜柑
10
他人を勝手な解釈で分かろうとすること、他人の予期せぬ言動に対して理由をつけたがること、今の自分自身にもドキッとさせられるような台詞回しがあってとてもよかった。 文章自体は読みやすくて、今の歳で読めたことも良かったのかもしれない。自分は自分、他人は他人だということは当たり前なことなのについつい忘れる時があると改めて思った。 初読み作家さんだったけどこれから読んでいきたい。2023/12/21
URYY
2
太宰治賞受賞と言えば…津村記久子さんを思い出したが、途中から、宇佐美りんさん、古谷田奈月さんのいくつかの作品のことを思い浮かべながら読んでいた。ある属性の人の暴力を誘導することにはどうしようもない残酷さを感じたし、視点人物の負った傷も、少し小説の道具のように思えてしまった。薄い膜の向こうにしか他者を置けない視点人物の不憫さの描出が目的化してしまっているのは、結局古風なコミュニケーションの機微をナラティブで操作したかったからなのかな、と思った。クリシェ化してる文学的表現との距離がもう少しあってもいいかな。2024/12/08
あざすたしあ
2
ミステリー小説じゃないけど、表題作「名前も呼べない」は、読み終えた瞬間すぐに頭に戻って再読してしまった。不倫相手との関係がダメになり引きこもる主人公・恵那の苦しい胸の内、生きづらさについて容赦ない筆致でえがかれていたのでヒリヒリした。 「私がいつも笑っていたのは、怒られたり見下されたりする前に自分をばかにしておけば、少なくとも人から痛みを受けることはないからだ。けっきょく、誰よりも自分を憐れんでいたのは私だった。」へらへらいいひとのふりをしている人間の本音を1文で書き切る作家の才能とセンス、凄い2024/05/28