出版社内容情報
明治時代の鹿児島で士族の家に生まれ、男尊女卑や家の厳しい規律など逆境の中で、独立して生き抜いた一人の女性の物語。解説 鶴見俊輔・斎藤真理子
内容説明
「わたしという女は、子しか産むことのできぬ女なのか」「ひとふりの刀の重さほども値しない男よ」…。男尊女卑の因習、家の規範、愛なき結婚、第二次世界大戦、70代での夫との訣別…薩摩士族の娘であるキヲは、明治から昭和にかけて世のならいに抗い、「独立」の心を捨てずに生きた。自らの母をモデルに、真の対話を求め続ける一人の女性を鮮烈に描いた名著。
著者等紹介
中村きい子[ナカムラキイコ]
1928年、鹿児島生まれ。小説家。谷川雁、上野英信、森崎和江らが中心となり1958年に創刊された「サークル村」に参加。本作『女と刀』で第7回田村俊子賞(1967年)を受賞。1996年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
37
芯の強い女性を描いているという印象を受けました。強烈で力強さがあり、生まれる時代が異なれば良かったと思わずにいられません。2023/10/29
Moeko Matsuda
9
長いこと積読していたこちらの本、読み始めたらあっという間だった。めちゃくちゃ強烈。帯には「薩摩士族の娘の苛烈な生」とあるが、その苛烈さの根本は彼女の性格だ。凄まじい男尊女卑の在り方は、読んでいると暗い気持ちになる。しかしそれを跳ね返すキヲさんはあまりにも気が強いし、更にその根本には別種の差別意識が根強くあることが、私自身がこの作品をどう評するか、述べることを難しくしている。ただ確実なのは、要するに一言で言えば、彼女はあまりにも強く、直刃の刀のように鋭いということ。女、だから。魂が震える読書体験だった。2022/12/18
kana0202
3
思想的には賛成なところと反対な箇所もあるが、いい意味でとてつもなく非常識。鶴見の言うように己の軽さを考えさせる。明治以降の百年を郷士の女がどう過ごしたかもわかる。次は石牟礼の西南役伝説を読もうかしら。2023/01/22
greco
3
まず言葉がとてもよかった。方言がテンポよく入ってきて、知らないのにニュアンスが伝わってくる。あの言葉があっての、キヲやそのまわりの人々だった。 西南戦争以降の時代を生きてきた女性キヲの、自分の「血」と向き合い自分のものにする人生を描いた物語。そこまでこだわり諦めない強さは読んでいて困惑するほどではあったが、それは当時は持てなかったものを普通に持てている時代の人間だからだとも思う。2022/12/04
fuku
2
この部分に私はしびれました。「男と女が共に生きるということで、男である女であるというそのみちをきわめるために、お互いを侵しはしても、侵すされてはならぬ、というその肌の重みを突きつけあって生きていくというならまだしも、女が男と同等に生きる権利を得ようとする、ひとえにそれだけの姿勢にとどまったところで女の新しさなどと、そのような一枚皮の線におく、古い女新しい女の基準など笑殺したところで、生きるよりほかないわたしなのである。」 楽に生きることが幸せじゃないんだよ、やっぱり。読んでよかったです。2023/07/04