出版社内容情報
澁澤龍彦の最初の夫人であり、神聖不可侵な少女との対話を続けた矢川澄子。その作品に様々な角度から光をあてて織り上げる珠玉のアンソロジー。
内容説明
この少女は不言を金科玉条とし、「お話をかくひと」を夢見た―澁澤龍彦の最初の夫人であり、アナイス・ニンやルイス・キャロルのすぐれた紹介者であり、孤高の感性としなやかな知性の持ち主であった矢川澄子。その作品にさまざまな角度から光を当て、幼い日々、思い出の人々、高原暮らし、少女‐反少女論、文学論などのテーマで織り上げる。密やかに、けれども強く輝く珠玉のアンソロジー。
目次
第1章 あの頃
第2章 存在の世界地図
第3章 高原の一隅から
第4章 不滅の少女
第5章 卯歳の娘たち
第6章 兎穴の彼方に
著者等紹介
矢川澄子[ヤガワスミコ]
1930‐2002年、東京生まれ。作家・詩人・翻訳家。東京女子大学英文科を卒業後、学習院大学独文科在学中に同人誌『未定』に参加。59年、仏文学者で作家の澁澤龍彦と結婚し、仕事の協力者として活躍するが68年に離婚。以後も文学活動に従事。小説・詩集など多数
早川茉莉[ハヤカワマリ]
編集者、『すみれノオト』発行人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
37
アリスへの執拗なまでの言及は、矢川澄子の少女性へのこだわりを端的に物語っている。「少女とは、おそらく、そのような厳密な論理の支配下、明澄な知性の君臨する保護領で、冴えざえとしたよろこびのまなざしに支えられてこそ、もっとものびやかに精彩を発揮するにちがいない、可憐な生きものなのである」と「不滅の少女」と題されたエッセイで彼女は書いているが、解説で早川茉莉が指摘しているように、矢川の中の反少女の存在も忘れてはならない。「素直にふるまえ、正直こそ第一、とおとなたちは教えながら、(つづく)2021/05/26
なる
27
澁澤龍彦とドロドロの離縁劇を繰り広げた後も彼を「おにいちゃん」慕っていたという彼女が、最期に首を吊る直前にのこした遺書の名前をタイトルに引用している。エッセイ集という名を借りて彼女の心象宇宙に触れられるけれど、引っ張られそうな危険さもまた怖い。児童文学の翻訳家として名を成しただけにその造詣は深くて知らない作品も多数。けれどやはり『アリス』に紙面を割いているあたり、永遠の「アリスに憧れた傍観者」だったのかもしれない。「永遠のアリス」ではないのが幸せでもあり不幸でもある。表紙デザインは内藤礼。良いチョイス。2022/07/03
かもめ通信
22
『おばけリンゴ』『あめのひ』『ぞうのババール』メアリ・ド・モーガンにポール・ギャリコ、ミヒャエル・エンデ。矢川澄子さんには子どもの頃から随分お世話になってきたし、彼女には澁澤龍彦とは切り離して評価されるべき才能があるとずっと思ってきた。70のエッセイを収録したこの本を読んで、改めてその才能に感じ入るとともに、彼女にとって結婚生活は、幼年期の思い出同様、自らの成り立ちに欠かせない経験であったのだろうと改めて思いもした。そういうエッセンスを巧みに盛り込み、さりとて強調しすぎない気配りある編集にも好感が持てた。2021/05/29
くさてる
18
幼いころの風景と記憶から、高原での生活、少女論、ルイス・キャロルやアナイス・ニン、森茉莉といった作家論まで、幅広く取り上げられたエッセイ集だが、文章がどこまでも瑞々しく、背筋が伸びて美しい。素晴らしい。この才能は忘れられることがないと思うけれど、著者の他の作品をまた読みこんでいこうと思った。2021/05/09
あ げ こ
17
内へ内へと向かうほど、より強く、鋭く煌めく。頑なであればあるほど、その煌めきはより鋭さを増す。不可思議で、静かで、とても綺麗な。沈黙さえ、煌めいている。秘して黙した言葉さえ、鋭く煌めいている。定めている、決めている、自ら選び、殉じている。そう在るべきとしている。許さない事の、許していない事の多さ。主に自らに対してだが。ちっぽけであると言う。すべてそこにあると言う。ものごころついてこのかた、その世界観を生きて来たのだと。潔癖なまでに、今なおそうである事の、はじまりについて。或いはアリス、不滅の少女について。2021/04/23