出版社内容情報
近年はなかなか読むことが出来なかった“幻”のミステリ作品群が編者の詳細な解説とともに甦る。夜の街の片隅で起こる世にも奇妙な出来事たち。
内容説明
狂った男が異様なテンションで昔馴染みの女性について独白する「幻の女」、天国とこの世を行き来して自分を殺した犯人を探す「たたけよさらば」他、予測不能の結末、設定や形式、登場人物までが奇妙かつ巧妙に組み上げられた作品群。1960年代から70年代に執筆された“異色”過ぎる物語15編が初の文庫化。「ミステリ作家田中小実昌」の軌跡を追った日下三蔵による詳細な解説も収録。
著者等紹介
田中小実昌[タナカコミマサ]
1925年東京生まれ。東京大学文学部哲学科中退。バーテン、香具師などの職を転々とする。J.H.チェイス、R.チャンドラー、C.ブラウンの名訳で知られる。1979年「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」で第81回直木賞、同年『ポロポロ』で第15回谷崎潤一郎賞を受賞した。2000年2月アメリカで客死
日下三蔵[クサカサンゾウ]
1968年神奈川県生まれ。SF・ミステリ評論家、アンソロジスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
cinos
60
ミステリというよりも異色作家小説という感じで、不思議な話が昭和の風俗とともに軽妙な文体で書かれています。「悪夢が終わった」のラストでいきなり英米文学の名作の結末になり悶絶しました。「11PM殺人事件」が密室殺人からの、死体消失というミステリ色が強い作品で楽しめました。2021/04/02
佐島楓
60
吉行淳之介とかあのあたりの作家からのつながりで読んでみたいと思っていたひとだったけれど、エッセイから入ったほうがよかったのかなあ。昔の風俗があまりにも猥雑で、意味がよくわからないスラングも頻出するし、何より若い女性が性的対象としか見られていなくて引いてしまった。そういう時代だったんだなあと。今の作家がもう持っていない語りの面白みはあるんだけれどね。2021/03/07
くさてる
19
なんとも不思議な読み心地。テンポよく進む語りの文章は60年代のスラングが頻出して、中には意味も分からないようなものもあるけれど、ぐいぐいと読ませていく。女性の扱いの軽さと薄さはちょっと驚くほどだけど、これもまた時代性と思えば、よりリアルにその時代を表現しているということ。なので、ミステリというよりは当時の世相を感じるための一種の風俗小説として楽しみました。それでも表題作はやはりどこか不気味だし、「タイムマシンの罰」の虚無といってもいい底知れない怖さも印象に残りました。2021/03/13
JKD
19
まるで漫談を読んでいるかのようなテンポのよさでブッ飛んだ話ばかり。4コマ漫画のようなオチで終わる「たたけよさらば」に始まり、ずっとバーとかユーレイが出てくる。ミステリーの真相は緻密なトリックではなくユーレイで片付けられる。2021/02/14
Inzaghico
11
この人は「ユーレイ」の話が好きなんだなあ。殺された主人公が天国に入れてもらえなくて自分を殺した犯人を探す「たたけよさらば」を筆頭に、タイトルですべてを物語る「先払いのユーレイ」などなど。この人は女性も好きなんだなあというのがよくわかる作品も多かった。とくに水商売の人が好きなのね。水商売のちょっと歳のいった女性は、味があって面白い人多いものね。「11PMの殺人」は、今からすれば笑っちゃうようなオチなのだが、雰囲気にもっていかれた。ちゃんと伏線も張ってあったのに、まんまとしてやられました。こういうのが好きだ。2021/03/08