出版社内容情報
太平洋戦争中の情報操作は戦局の悪化とともに激しくなる。主導した大本営発表の実態と構造を解明する。歴史の教訓に学ぶための1冊。解説 望月衣塑子
内容説明
戦況の悪化にともない、偽りの情報を流すことによって、人々を欺いた大本営発表。それは軍事主導体制内部でも深刻な対立・錯誤を招き、さらに犠牲を生じさせた。最悪のフェイク・ニュースは太平洋戦争期間中にどのような変遷をたどり生まれたのか。情報隠蔽・記録改竄という問題に直面する私たちが、昭和の負の歴史を教訓化するために必読の1冊。
目次
第1章 大本営発表の開始(第一回目の衝撃;諦め、熱狂、無関心 ほか)
第2章 大本営発表という組織(曖昧な組織;二つの報道部 ほか)
第3章 大本営発表の思想(悩める知識人;東條がつくった国民囲い込みの「外壁」 ほか)
第4章 大本営発表の最期(「大本営発表」から「大本営及帝国政府発表」へ;シビリアンコントロールの定着 ほか)
第5章 大本営発表からの教訓(大本営発表の歪みからみる日本軍の特質;アッツ島玉砕にみる日本軍の欠陥 ほか)
著者等紹介
保阪正康[ホサカマサヤス]
1939年、北海道生まれ。同志社大学文学部卒業。日本近代史、とくに昭和史の実証的研究を志し、歴史の中に埋もれた事件・人物のルポルタージュを心がける。個人誌「昭和史講座」を中心とする一連の昭和史研究で菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
60
最悪の「フェイク・ニュース」としての、太平洋戦争中の大本営発表を徹底して分析。国民が批判的に発言しようものなら逮捕・断罪され、軍部や政府のウソは謝罪もなくまかり通る。その結果、多数の人命を犠牲にして、破滅への道をひたすら進んでいった要因となった。報道機関・多くの言論人も、冷静に考えることなく追従して戦争協力に突き進んだ。前世紀のエピソードなどと済まされるものでは到底なく、現在の日本、あるいは今ならどこの国にでも通用する警告となる。ものを自由に言えることは最低限、守らなければならないことなのだと痛感。2019/12/30
トントン
15
負けが込むと、虚偽→誇張→隠蔽の方程式で発表されていく。精神論による病理と言われるが、英米に比し戦争システムの理解能力欠如という方が腑に落ちる。新聞も一面に富士山をデカデカと掲載して一億総決死を促したとは(笑) 初めは誰が~どこで~など陸・海軍がメンツ争いしながら自らの功績を誇るが、敗戦濃厚になると「我らが〇〇」など「我」で始まる見出しばかりで国民にも責任転嫁が。また、敗戦を伝えず、ポツダム宣言受諾後も総玉砕を唆す記事掲載を考えていたとは…が、現在のメディアも、思考を閉鎖する空間を作っていないだろうか。 2021/12/20
うさぎや
6
「大本営発表」の本質の恐ろしさを知る。もはや自殺行為としかいいようがないし、それがまだほんの数十年前の出来事だったというのも怖い。2020/01/05
Ted
5
'19年12月(底本'04年4月)刊。○大本営発表を報じる当時の新聞は、軍や政府の伝えたいことだけを報道する「回覧板」と同じであった。現在の新聞やテレビがつまらなくて影響力が急速になくなりつつあるのも同じ理由による。彼らはネットのような新しいメディアのせいだと言い訳するが、そうではなくて自らの怠慢と驕りが原因だと思う。我々は、ジャーナリズム精神の片鱗も感じられないような官製報道や、都合が悪そうなものは尽くカットしたような規制だらけの綺麗事にはいい加減ウンザリしていて、只「本当のこと」が知りたいだけなのだ。2020/05/09
よいおいこらしょ
5
最初は客観的事実に基づく予想は、最終的にこうであってほしい願望へとすり替わる。当初現地民を保護した理知的な日本軍は何処へやら、散華を賛美する宗教組織になってしまった。大本営発表の文体が初期と晩期では全く違うことに『虐殺器官を』思い出した。2020/02/21