出版社内容情報
飛田、釜ヶ崎……、大阪のどん底で強かに生きる男女の哀切を直木賞作家が濃密に描く。『飛田ホテル』に続く西成シリーズ復刊第二弾。(花房観音)
黒岩 重吾[クロイワ ジュウゴ]
著・文・その他
内容説明
片足に障碍を持ちながら山王町で水商売をする澄江は年下で喘息持ちの高井と心を通わせるが、西成で生きる人々の業がふたりに悲劇をもたらす(「湿った底に」)。裕福な家に育ち空虚な人生を送っていた青年と夜の街で奔放に踊る女性。互いに惹かれあいながらもすれ違う男女の行方(「落葉の炎」)。「魂の観察者」と称された作家が大阪西成を舞台に描く傑作短篇集。
著者等紹介
黒岩重吾[クロイワジュウゴ]
1924‐2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
56
西成山王とはどういう場所なのか、この本から拾ってみました。「すえた臭いの漂う裏町」、「理論や言葉だけではどうにもならない現実」、「独特の酸味と苦みの混じった臭いが漂い、社会で行き場を失った人たちのたまり場」とまあ、形容されています。そんな街に暮らす男と女の悲哀が書かれています。暴力や売春やクスリに依存して生きて行く壮絶な男女の人間模様なのに、どこか切ないお話でもありました。2018/08/15
るい
37
50年前に出されたというその時代をリアルに噛み締めたくて手に取ったけれど…。思っていたのと全く別方向の展開に予想を越える濃さと暗さ。まやかしの日々は虚像でしかなくて現実はただひたすらに暗闇に塗り潰されて絶望へ進んでいく。重かった。2021/04/26
JKD
12
絶望と希望が渦巻く西成地区。壮絶な生活とどす黒い愛憎劇。中にはひっそりと死んでいくものも普通にいる。とても恐ろしい町のようだが、実際に行ってみると人間臭い人たちばかりなので、私はこの地域が嫌いではない。それは好奇心だけの余所者だからなのでしょう。2018/08/28
犬養三千代
9
昭和30年代のドヤ街の雰囲気が立ち昇ってくる。その喧騒、置屋、働く女達。「崖の花」はちょっと異色。異母兄を愛した哀しい物語。 いま、山王にはざこば師匠の「動楽亭」があり、初めて動物前駅降りたときは引いてしまった。が、 過去の山王ではなく今も続いている感じがする。60年経ても、変わらない何がある。 男と女しかいないんだなぁ。 2022/02/01
nyanlay
9
図書館で見かけて借りてみました。本自体が新しく見えたので、最近の本かと思いきや、約50年前の作品。関西はもともと土地勘がないので、見知っているイメージで読んでみました。全体的に救いようのない話しばかり。ただ嫌な読後感がなかったのが不思議。2018/10/29