出版社内容情報
「ちょいと」「よくって?」・・・日本語学の第一人者が、小津映画のセリフに潜む、ユーモア、気遣い、哀歓を読み、味わい、日本語の奥深さを探る。
中村 明[ナカムラ アキラ]
内容説明
「ちょいと」「よくって?」と呼びかけ、「しっかりね」とハッパをかける。小津作品の熱心なファンである日本語学の第一人者が、小津映画のセリフに潜む日本語のユーモア、気遣い、哀歓等を解読する。また役者の仕草や立ち居振る舞いから古き日本の生活感を拾い出し、忘れかけた日本文化を再確認し、その姿をいきいきと蘇らせる好著。
目次
小津映画の美意識
季節ににじむ哀感
描き出される人物像
口ぐせの詩学
時代の気品
会話の芸
表現の“間”
たしなみの余白
絶妙の無駄
噛み合わず展開
コミカルな笑い
エスプリとアイロニー
にじみだすユーモア
妙想と名文句
逸話の語る小津安二郎
著者等紹介
中村明[ナカムラアキラ]
1935年山形県鶴岡市生れ。国立国語研究所室長、成蹊大学教授を経て、母校、早稲田大学の教授となり、名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
39
監督小津安二郎の人となり、映画のストーリーなどと絡めて、小津映画に出てくる言葉から辿る古き良き日本の美しい側面。小道具、衣装、役者の話す台詞のひとつひとつ、細部にまで凝って凝って作り上げる理想の世界。私は小津映画で好きなのは、女の人たちの動いている姿。畳の上の新聞を拾い上げ、脱ぎ捨ててある背広を拾ってハンガーにかける姿。バケツの中で雑巾を絞り縁側を雑巾がけする姿。タイプライターを打っている姿など。読んでいると、小津映画を見返したくなること請け合い。2017/03/14
りえこ
21
小津映画、大好きです。様々なシーンや登場人物を思い出して、又、観たくなりました。独特な言葉使いや、この時代を感じさせる言葉や人間関係、とても素敵だなと思いました。2017/09/05
いの
20
日常の生活から日本人を表現しているのが小津映画なのでしょうか。言葉のやり取りが妙に面白いうえ品がありますね。読むだけでどういうわけか寂しい思いに誘われました。生まれて死を迎えるまで私達が触れる感情やめぐらす思いを丁寧に表現しているのかなと。そして言葉の駆け引きがコミカル。「たしなみの余白」は日本語ならでは。主語がないので誤解も生みやすいものだとは思いますけれどこれも日本文化のひとつ。是非映像をみたいです。2020/03/11
いづむ
10
言葉の美しさは主観的な部分も大きいけれど、小津映画で聞く話し言葉は耳に心地よく、抑制されながらも日本人が育んできた情緒に溢れているように感じます。映画を観ていないと、本書で取り上げられる会話がはらむ情感が伝わりにくいかもしれませんが、もし観ていなくてもかつて多くの人が自然に身につけていた礼儀正しさ、ゆかしさ、たしなみがにじむ表現の数々は十分感じ取れると思います。言葉には使う人の姿勢や心がけが表れると思うので、今後も折に触れて我が身を振り返りたいと思います。小津監督ご自身のエピソードも微笑ましく読みました。2022/07/17
うちこ
5
この本を読んでいると、昭和の時代に「風通しのいいコミュニケーション」として美化されたものが現代ではモラハラ的なものを大きく孕んでいて少しゾッとするのですが、それでもわたしは、強い立場の人間が弱い立場の人間に向かって「言わなくても察しろ」というのと同じくらいかそれ以上に「言わなくてもわかっているよ」と、その気持ちを伝える言葉を発してくれる小津映画のセリフが好きです。 家庭や近所にこんな年長者がいたら、理不尽なことに耐えながら、それでも人を信用できる大人になれただろうと思う、そういう人物がたくさん出てきます。2021/05/17