出版社内容情報
東南アジアの島々を舞台に繰り広げられる人間模様を、達観した老医師の視点でシニカルに描く。人間観察の達人・モームの真髄たる長編、初の文庫化。
内容説明
眼科の名医サンダースは、中国人富豪の目の手術をするためマレー列島の南端にあるタカナ島を訪れる。手術は成功したものの、退屈しながら帰りの船を待っていたサンダースは、たまたま島に寄港した帆船の船長ニコルズとミステリアスな乗客の青年フレッドに興味を抱き、彼らの航海に同行することにする。南洋の島々を舞台に、老若男女の人間模様をシニカルに描いたモームの長編を新訳で贈る。
著者等紹介
モーム,W.サマセット[モーム,W.サマセット] [Maugham,William Somerset]
1874‐1965。20世紀最大の作家。聖トマス病院附属医学校で医師免許を得た後、文学の道に転じる。青年の苦悩と自立を描いた自伝的小説『人間の絆』は教養小説の白眉。数々の長・短編小説の傑作を残す
天野隆司[アマノリュウジ]
東京生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
41
眼科医なのに、ニコルズが診察を頼んだのは自身の消化不良。まあ昔の医者だからテキトーか。ニコルズはサンダースにうさん臭さを感じて航海に誘ったようだ。サンダースは作品の中ではいわば観察者で、かつ作者の代弁者でもある。よって感情の振り幅が小さいが、唯一の例外は嵐に遭遇した時だ。彼は大いに取り乱すが、それまで散々な言われようだったニコルズ船長をべた褒め。最も若いフレッドは最新の新聞を読みたがるなど見るからに訳ありで、隠そうとすればするほど怪しい言動が目立つ。言うことは正論だが行動が伴わず最も手痛い傷を負う。2018/08/21
りつこ
40
自分の体験したことと自分の感情しか信じない、この世界は私と私の感情から成り立っていると語るサンダース医師はモーム自身を体現しているのだろうか。利己的で善悪にとらわれず何にも感情を揺さぶられず諦めの境地から人々を眺めるサンダースは、あくまでも観察者ではあるけれど、この人の視線が物語全体の空気を作り出している。こういう人生の面白がり方もあるのかなと、共感半分反発半分。でも物語としては地味だけど面白い。今年もモームをコツコツ読もう。2016/01/09
かえる
25
悪党のニコルズ船長は妻を恐れ、フレッド青年は重大な事を隠している。サンダース医師はあくまで中立的な立場にあり、吹き荒れる波を除けば、いつだって冷静に物事を捉えている。 前半はこの3人が主に中心となっているが、中盤以降は事件が起き、ミステリー的な展開となる。この流れがなかなか巧い構成だ。なぜならフレッド青年の正体が暴かれるからだ。青年は人生の新入りだから理想を追い求める。一方で50を過ぎた医師は人生を俯瞰している。この二人の会話が絶妙に面白い。医師が青年に語りかける言葉は我々への人生の助言である。 2021/04/27
かえる
25
南洋を舞台にしたモームお得意の人間観察と思わず航海の旅に出たくなる熱帯の描写の数々。医師、船長、青年を中心に航海するが、意外な展開が待ち受ける。人生の夕方とも言える医師は、これから人生を築いていく青年の言動におかしがる。友情と恋、青年の犯してしまった事柄に医師はどう諭すのか、そこに人生の真実が見えてくる。しかしこの青年は不幸すぎやしませんか。モームらしく、随所に啓発される文章が散りばめられているが、航海は静かな雰囲気。南洋の熟した木の実のように人間も目指すべきところは決まっているようだ。2020/08/26
コージー
16
★★★☆☆名医サンダースが、人々の人生を冷静沈着かつシニカルに眺めていく姿が非常に印象に残った。2024/10/13
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