出版社内容情報
エリートの道を転げ落ち、引きずる死の影を詩いあげる放哉。各地を歩いて、生きて在ることの孤独と寂寥を詩う山頭火。アジア研究の碩学による省察の書。
内容説明
学歴エリートの道を転げ落ち、業病を抱えて朝鮮、満州、京都、神戸、若狭、小豆島を転々、引きずる死の影を清澄に詩いあげる放哉。自裁せる母への哀切の思いを抱き、ひたひた、ただひたひたと各地を歩いて、生きて在ることの孤独と寂寥を詩う山頭火。二人が残した厖大な自由律句の中に、人生の真実を読み解く、アジア研究の碩学による省察の旅。文庫書き下ろし(詳細年譜付き)。
目次
尾崎放哉(コスモスの花に血の気なく;青草限りなくのびたり;脱落;つくづく淋しい ほか)
種田山頭火(洞のごと沈めり;泥濘ありく;関東大震災;観音堂 ほか)
著者等紹介
渡辺利夫[ワタナベトシオ]
1939年甲府市生まれ。慶應義塾大学卒業。経済学博士。筑波大学教授、東京工業大学教授を経て、拓殖大学総長。外務省国際協力有識者会議議長(前)。第17期学術会議会員。アジア政経学会理事長(元)、山梨総研理事長。2011年、正論大賞。著書として『成長のアジア停滞のアジア』(吉野作造賞)、『開発経済学―経済学と現代アジア』(大平正芳記念賞)、『西太平洋の時代』(アジア・太平洋賞大賞)、『神経症の時代―わが内なる森田正馬』(開高健賞正賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
朗読者
27
自由律俳句の双璧、尾崎放哉と種田山頭火の半生を綴った作品。きっかけはヨルシカのナブナさんが放哉を信奉し、その句や生き様を曲に取り入れていたこと。二巨頭は大酒飲みで常に問題を起こし、家庭を失い、知人たちから金を無心し、衣食住を世話してもらう体たらくなのがそっくりなだけでなく、死を待望し、そこに近づくほど句が極まったことが興味深かった。次は句により深く触れたい。「こんな良い月を一人で見て寝る」美しい。そして寂しい。「入れものが無い両手で受ける」尊い。そして美しい。これらの美しさは死が近くにあるためなのか。合唱2024/03/04
かめりあうさぎ
23
初読み作家さん。自由律俳句の名人2人の人生を追いながら、彼らの俳句を紹介いていく構成で、どういう時にその句を詠んだのかという背景を想像しやすくなっており、放哉も山頭火も初めましての私にはとても分かりやすかったです。2人の壮絶な人生を眺め、ここまでしないと人の心をえぐるような句は詠めないのか、と。そこまでしてでも句を詠みたかったのか、という言い方もできますが。山頭火はまだどこか俗世に未練がある感じでしたが、放哉に至ってはもう何もかも壊滅的。だからこそ、放哉の最期には涙でした。2020/12/18
かふ
19
放哉と山頭火の区別も付かなかったのだが似ているようで全然違った。尾崎放哉は、ダメ人間の典型だけどそれが自由律になるとピシッとしているから不思議。又吉直樹が好きそうなキャラでした。種田山頭火はあまりにも悲惨な人生で定住が出来ずに死に場所を探して放浪していたきらいがある。多くの死地に赴き漂流の俳人というイメージは山頭火の方にあった。放哉はダメ人間だけどそれがよろしいのかな。廻りは迷惑この上ないが。2023/05/08
太田青磁
14
火ばしさす火の無き灰の中深く(尾崎放哉)・妻を叱る無理と知りつゝ淋しく・青草限りなくのびたり夏の雲あばれり・ここに死にかけた病人が居り演習の銃声をきく・たつた一人になり切つて夕空・そつたあたまが夜更けた枕で覚めて居る・障子あけて置く海も暮れ切る・久し振りの雨の雨だれの音・火鉢火もなしわが室は洞のごと沈めり(種田山頭火)・炎天をいただいて乞ひ歩く・波音遠くなり近くなり余命いくばくぞ・うしろすがたのしぐれてゆくか・酒飲めば涙ながるゝおろかな秋ぞ・ほろほろほろびゆくわたくしの秋・おちついて死ねさうな草枯るる2017/01/14
るい
8
尾崎放哉の人物像に迫るために読んだ本。東京帝国大学を出て、保険会社へ。エリートまっしぐらかと思いきや、アルコール中毒と肋膜炎に悩まされ、転落の道を歩む。最後は島で寺男として過ごすところを読むと、とても寂しくなった。しかし、そんな彼でも何人も救ったり助けたりしてくれる人が現れるのは、うらやましい。現代にはない感覚だろう。絶望の淵を生きたからこそ、その俳句が光るのかもしれない。2017/11/21