出版社内容情報
東京―大阪間が七時間半かかっていた昭和30年代、特急「ちどり」を舞台に乗務員とお客たちのドタバタ劇を描く隠れた名作が遂に甦る。解説 千野帽子
内容説明
東京‐大阪間が七時間半かかっていた頃、特急列車「ちどり」を舞台にしたドタバタ劇。給仕係の藤倉サヨ子と食堂車コックの矢板喜一の恋のゆくえ、それに横槍を入れる美人乗務員、今出川有女子と彼女を射止めようと奔走する大阪商人、岸和田社長や大学院生の甲賀恭男とその母親。さらには総理大臣を乗せたこの列車に爆弾が仕掛けられているという噂まで駆け巡る!
著者等紹介
獅子文六[シシブンロク]
1893‐1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。芸術院賞受賞、文化勲章受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
105
《東京から大阪まで4時間!—夢の超特急》の名のもとに誕生した東海道新幹線が開通したのが1964年。おりしも、夏のオリンピックが東京で開催された年でした。本作はその4年前、東京―大阪間を当時最速の7時間半で走る特急列車を舞台にした物語です。車内でおこる乗客たちのトラブル、乗務員らの汗と苦労、そして恋の芽生えなどが綴られたコメディタッチの楽しいお話です。当時の世相を思い出す、懐かしさいっぱいの一冊でした。2019/12/22
Shinji
98
獅子文六さんの作品、初めて読ませてもらいました。新幹線もまだ開通していない時代の話。そうか… 七時間半もかかってたんですね。そりゃ食堂車も必要だわ! 子供の頃の記憶として朧げに食堂車の記憶がありますが、何食べたなんか覚えてないなぁ… 言葉遣いが今と少し違っているラブコメということですが、喜ぃやん、サヨ子、有女子の行動がコメディっぽくなかったですけど、七時間半の中での心の動き、当時の世相が見て取れて面白かったです!2015/11/11
ばう
78
★★★★ 東京大阪間が7時間半かかっていた頃の特急列車内を舞台にしたお話。ただのラブコメディかと思いきや爆弾騒ぎも起こってもう車内はてんやわんやの大騒ぎで大阪到着!60年以上前の作品だし途中で飽きるかな?と思ったけれどとんでもない、面白くて最後まで一気に読めました。列車のコック、ウェイトレス、客室乗務員、乗客たちなどそれぞれキャラが立っていてみんな生き生きと描かれています。全編にわたってあちこちに皮肉な描写が顔を覗かせるけれどそれが全然嫌味じゃなくて、大阪弁の会話も相まってユーモア溢れる楽しい作品でした。2021/10/24
kk
73
むかし懐かしい東海道線・在来特急を舞台に繰り広げられる、スラップスティック的人間喜劇。善良しっかり娘系のサヨ子さんと、小悪魔ちゃっかり女系の有女子さん、2人のヒロインがそれぞれ持ち味で如何にも魅力的。男性だけでなく、たぶん女性読者にもしっかりアピールするんじゃないかな。バタバタがあったり鞘当てがあったりだけど、全体のターンはどことなく牧歌的。そこはかとなく人の心の機微にも触れる、おおらかで優しい語り口。読んでいて、なんとなく幸せな気分にさせるお話。2020/03/07
Galilei
71
東海道本線の最速特急「ちどり」は仮名で実際は「つばめ」、国鉄スワローズ(現ヤクルト)球団名の由来。舞台は新幹線登場の数年前のちどり食堂車。見習いコックとウエイトレスの恋愛に、横恋慕する美人アテンダントと旅客が絡む物語は、作者の洒脱なテンポが、岸首相の乗車による警備が不安を呼びドタバタ劇が盛り上がります。▽職場は女性が良縁を求めて人生設計の重要な舞台で、戦後解放された女性の結婚観を具に表現しています。食堂車のメニューには当時最上の贅沢なテンダロインステーキやプルニエのコースもあり、本格的レストランでした。