内容説明
第二次世界大戦前夜のイタリア、山荘に住む美貌の未亡人メアリーは親子ほど歳の離れた英国高官エドガーからプロポーズを受ける。一途なアプローチに心を動かされるメアリーだったが、そこにエドガーとはまったくタイプの違う二人の男性が現れて物語は急展開を迎える。芸術の街フィレンツェの華麗な英国人社交界を舞台に、刻々と変化を見せる女の心情を鮮やかに描いたモームの傑作を新訳で。
著者等紹介
モーム,W・サマセット[モーム,Wサマセット] [Maugham,William Somerset]
1874‐1965。20世紀を代表する作家のひとり。早くに両親を失い、ハイデルベルグで医学を修めたが途中で文学に転じる。数々の長・短編小説の傑作を残す
尾崎寔[オザキマコト]
福岡県生まれ、旧満州で育つ。同志社大学文学部英文学科卒。同志社女子大学では伝統のシェイクスピア原語上演を長年にわたって指導。同大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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seri
65
愛を求めれば死にたくなる。それくらい男と女の間の溝は深い。愛を失った美しき未亡人、完璧を求める老紳士、スリルを求める放蕩者、生に苦しむ避難民の若者。それぞれが全く違う方向を向き、全く違うものを求め、それなのに皆一様に愛を語り愛を求める。愛とはどんなものなのか、明確な答えなんて分からないけど女ごころは揺れる。愛の名を前にして女ごころはかくも弱く、変容を常とする。幸福の定義がないように愛もまた定義を持たない。完璧なんて、どこにもない。全てはサイコロの出た目のように。男女の本質を、人間の本質を、鋭く突く。2015/01/23
星落秋風五丈原
50
第二次世界大戦前夜のイタリア、山荘に住む美貌の未亡人メアリーの前に三人の男性が現れる。彼等の描写が人物描写のお手本と言っていいほど詳しい。一人目のエドガー・スウィフト。英国高官で彼のインド赴任がこの恋愛劇の幕を開ける。理想的な結婚相手である彼のプロポーズにすんなりイエスの返事をしていればこの物語は終わってしまう。ここで都合よく彼がイタリアを離れ猶予が出来た所が起承転結の承の始まり。二番手のロウリーはエドガーと対照的なキャラクターに設定。この二人の間で揺れるだけでも十分ドラマになるが更に三番目の男性が投入。2018/08/20
こばまり
50
ブラボー!軽快で贅沢で傲慢で。己の美を認識しているヒロインが嫌味でないのは正直者だからだ。よしこれからも美女ではないが引き続き正直でいこう。それにしても開戦前夜の1941年に書かれたとは思えない瑞々しさとテンポ。頁を繰る手が止まりませんでした。モームって面白いのですね。2016/05/11
絹恵
48
何を以て幸福とするのか、こころ次第の選択であなたを幸福にすることは出来るだろうか。一途な想いの強さと、行方知れずの愛に身を委ねる強さ、両方の強さを抱くことが出来たのは、彼女の芯からの美しさゆえでした。誰もが憧憬の目を向ける美しさと幸福、でもそれは彼女の心を表すものではなく、その心は他者との繋がりを以て輝きます。彼と彼女の人生もまた。2014/11/16
いちろく
37
紹介していただいた本。未亡人メアリーの前に現れた3人のタイプの異なる男性。だれと結ばれるのか?という視点でみたら、恋愛小説もミステリ小説のように思えてしまうのは、筋違いではないよね?想像すら出来なかった展開を含め、読む前には思わなかった着地点に持って行かされた所も、著者であるモームの凄い所でもあるのか。舞台演劇を観ている様な感覚にも陥った。2021/02/05