内容説明
傑作ぞろいの「人間喜劇」からセレクトする3冊のコレクション、第3回。ナポレオンが戦争を拡大してゆく19世紀初頭のフランスを舞台に、貴族の名家を突如襲った陰謀の闇が描かれる。バルザック最高のヒロイン、サン=シーニュ嬢を軸に、英雄的な従僕ミシュ、冷酷無残な密偵コランタン、若き弁護士グランヴィル、さらにナポレオンやフーシェも登場する歴史小説の白眉。
著者等紹介
バルザック,オノレ・ド[バルザック,オノレド] [Balzac,Honor´e de]
1799年トゥールに生まれ、パリ大学法学部を出て、法律事務所も経験、大衆小説から出発し、出版、印刷、活字鋳造とすべてに失敗。1829年歴史小説『ふくろう党』で再出発。以後20年にわたって復古王政、7月王政下のブルジョワ社会を活写する『人間喜劇』約90篇を執筆。1850年パリの自宅で没
柏木隆雄[カシワギタカオ]
1944年生まれ。大手前大学学長。フランス19世紀文学、批較文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
141
バルザック作品を半分ほどしか読んでいないが、これは最高傑作ではないかと思う。バルザックのストーリーテラーとしての才能が存分に発揮されている印象。。そして、このちくま文庫は、註も解説も隅々まで読み応えあり。バルザック初心者は、この作品を註も含めて丁寧に読み、フランス革命から帝政、王政復古、共和制への以降で貴族達の生活がどう変遷していったのかを理解するとその他の作品の色々な事も理解しやすく話に入りやすいと思う。読んで興奮冷めやらず。バルザック人間喜劇を読み終えたらもう1度再読したい第1候補。2018/03/04
NAO
66
信念を貫き通すミシュ、男勝りで熱に浮かされたようなロランス、二人の熱い思いを一身に受ける美貌の双子の侯爵。彼らの貴族主義(悪い意味ではない)と、どこまでも執念深いコランタンと俗物主義のマランの対決は、劇的でミステリっぽくもある展開で、緊迫感に満ちている。ナポレオン、タレーラン、フーシェと実在の人物を織り交ぜてこんなに壮大な話を作り上げるバルザックって、本当にすごい。それにしても、コランタンの悪役ぶりは徹底していて、もはや「見事」と言うしかない。2016/08/29
みつ
31
ツヴァイクが伝記小説『ジョゼフ・フーシェ』を書くきっかけとなったとされる本作。その流れで約30年ぶり(前回は新潮文庫の復刊)で読了。このところ当時のフランス史を取り上げた小説を読んできたものの、それでもなかなか頭に入りにくい。ナポレオンの権力掌握期、元々ジャコバン派に属しながら、貴族の復権を目指すヒロイン・ロランスに忠誠を誓うミシュが既に不思議な存在。敵対するコランタンは、ロランスへの恨みを募らせる悪役ぶりが際立つ。結末は七月王政の時代に移り、タレーラン、フーシェを交えた密談の回想場面ですべてが明らかに。2024/10/22
きゃれら
16
ツヴァイクが「ジョセフ・フーシェ」を書くきっかけになったという作品。ナポレオンも出てくるし、中心となっている元老院議員誘拐も実際にあったことを元にしているらしい。事件に巻き込まれるヒロインの強気で筋を通すところが作品の通奏低音で、忠実な従僕との組み合わせが物語を盛り上げる。共和派、王党派、ナポレオン派が入り交じり、あるいは二股、三股をかける複雑な情勢での陰謀、権謀術数がプロットを複雑にする。自分として残念だったのはヒロインに感情移入できなかったこと。大革命を生き残った貴族の末裔は、そんなに好きになれない。2024/09/25
ウイロウ
14
『パルムの僧院』を「崇高が炸裂する」と称えたバルザックだが、その賛辞は本作にこそ相応しかろう。ヒロインのロランスを始め、ミシュ、シムーズ兄弟、シャルジュブフ侯爵といった人々から卑小な要素は捨象され、精神の気高さが強調されている。彼らはみな大革命で一敗地に塗れた貴族かそのシンパであり、そのことと作者が政治的に王党派であった事実とは無縁でない。しかし小説家バルザックの偉大さは、相対するコランタン、マラン、ナポレオンらをも単純な敵役とは為さず分厚い存在感を与えたところにあると思う。ラスト近くの戦場の場面は圧巻。2016/03/15