出版社内容情報
理想的な夫を突然捨てて出奔した若妻と、報われぬ愛を注ぎつづける夫の悲劇を語る名編『オノリーヌ』、『捨てられた女』『二重の家庭』を収録。
内容説明
傑作ぞろいの“人間喜劇”からセレクトする3冊のコレクション、第2回。愛人と出奔したあとに捨てられた若い妻をひそかに見守る伯爵の悲劇を描いた香り高い傑作「オノリーヌ」、『ペール・ゴリオ』を最も感動的に彩ったパリの名花ボーセアン夫人のその後を描く「捨てられた女」、のちの検事総長グランヴィルの若き日の秘密を明かす「二重の家庭」、中篇三篇を収める。
著者等紹介
バルザック,オノレ・ド[バルザック,オノレド] [Balzac,Honor´e de]
1799年トゥールに生まれ、パリ大学法学部を出て、法律事務所も経験、大衆小説から出発し、出版、印刷、活字鋳造とすべてに失敗。1829年歴史小説『ふくろう党』で再出発。以後20年にわたって復古王政、7月王政下のブルジョワ社会を活写する『人間喜劇』約90篇を執筆。1850年パリの自宅で没
大矢タカヤス[オオヤタカヤス]
1944年生まれ。東京学芸大学名誉教授、19世紀フランス文学、カナダフランス語文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobi
77
モーリアックの作品(テレーズ・デスケルウ)にフランス語の柔らかい響きを感じたのとは対照的に、バルザックの作品にはフランス語の論理性というか訳もあってか理屈っぽさを感じる。関係代名詞が入れ子のようになって風俗も会話も感情も階層的に整理され、心の蠢きも抽象名詞の配列に置き換えてしまうような。その違和感の中を進む内に主人公達の熱い想いが垣間見えてくる。特に長文の手紙。古典悲劇のように自らに軛を課しつつ、相手を慮りながら相手への想いを切々と訴え、相手には慕ってほしいのにそれは強いることのできない道理と弁えている。2020/08/31
佐島楓
68
収められている「結婚生活に苦しむ女たちの代表者、バルザック」から読み始めるのをおすすめする。19世紀フランスにおける女性の社会的地位の低さなど、物語の背景が書いてあり、理解が深まるからである。でも、今現在でも女性を自分の所有物とみなす風潮がなくなったわけではなく、その意味でこの時代とあまり変わっていないのかもしれない。2017/04/07
吟遊
15
一見、関係のない話題から入る導入、自然と物語に入り込む枠物語やパリの街の詳細な描写。そして、フランス革命以来のパリの歴史に詳しい。こういったところで、微に入り細を穿つように文章を練り上げる手腕は、バルザックさすが。物語の構成は、サスペンスを高めながら、読者が悟るだろうところでふっと転換して時間や場所を飛ばす。これも巧み。2017/02/19
H2A
15
『オノリーヌ』ジェノヴァ領事が若い頃に仕えていた伯爵が、自分を裏切った妻オノリーヌを密かに援助し続けるという内容だが、混み入って複雑な関係を繊細に描き出す。『二重の家庭』検事グランヴィルが、信仰心あふれる妻との不毛な家庭のかわりに、市井の若い女と作るもうひとつの家庭。終盤正妻と交わす会話の痛快さ、エピローグと実に「大人」な展開でバルザック世界の真骨頂。2編とも初読だが、序盤のもたつきは充分報われた。おもしろい。『捨てられた女』も傑作。2016/04/09
きりぱい
10
オノリーヌなんなの?人知れず悩みを隠しているような総領事が話し始めたのは、昔秘書をしていた伯爵がこれまた何事か悩みを抱えていて、それが・・という話。要は心に想う女がいたということだけれど、悪女じゃない分タチが悪い。許すと言っているのに、いいや自分で自分が許せないと自尊心の高いタイプ。他の男の所へ逃げておいて貞節も何もないのに、許されること自体が侮辱とでもいうような。わからなくもないけれど、取り戻せるかもと希望を抱く夫は悲劇。そこまで夫を嫌うのは、いや嫌いではないんだ、ほんと何なのオノリーヌ?面白い。2014/08/26