出版社内容情報
恋愛は甘くてほろ苦い。とある男女が巻き起こす恋模様をコミカルに描く昭和の傑作が現代の「東京」によみがえる。
内容説明
まだテレビが新しかった頃、お茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然“生活革命”を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。悲嘆に暮れるモエ子はコーヒー愛好家の友人に相談…ドタバタ劇が始まる。人間味溢れる人々が織りなす軽妙な恋愛ユーモア小説。
著者等紹介
獅子文六[シシブンロク]
1893‐1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえ、ウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となり、その多数が映像化された。芸術院賞受賞、文化勲章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hit4papa
129
コーヒーを入れるのがことの他上手な脇役中年女優が主役の通俗小説。生活力のない年下旦那との関係やコーヒーに執心することお仲間たちとの交流が中心に描かれた長閑な作品となっています。新劇の裏方を勤める旦那が、若手女優の元に奔り、主人公はせっかく射止めた主演ドラマでも力を発揮することができません。一方、コーヒー仲間の名士たちは、主人公を会のやもめ男との仲を取り持とうとして…。テレビドラマ黎明期の昭和を舞台にしているのですが、古さは感じさせません。本作品そのものが、昔のテレビドラマのような設定ですね。いい時代です。2022/01/24
ユメ
112
これほどコーヒーが飲めないのを悔やんだことはない(恥ずかしながら、苦いものが得意ではないので…)。これでも最近、コーヒー豆の香りの良さはわかってきた。だから、その香りを嗅ぐようにちょっと背伸びして、テレビドラマが普及しだした頃の物語を味わった。恋に惑う者あり、その傍でコーヒーに狂う者あり、「コーヒーと恋愛」がもつれ合いながら同時進行してゆくからコミカル。なまじコーヒーを淹れる腕があるだけに葛藤するモエ子の姿は哀しくもあるが、それだけに、彼女が最後に下した決断は実にスッキリとして、目覚めの一杯の如くだった。2015/10/02
じいじ
111
昭和の新聞連載小説だったので、現代とは少々時間のズレを感じるが「人間感情」にはギャップはないので、今読んでもユーモアにあふれていて面白いです。主人公は、テレビの人気タレント坂井モエ子43歳。同じ屋根の下で仲良く暮らす8歳年下のテレビマンがパートナー。このモエ子は自他ともに認めるコーヒー通。2人の関係にヤキモチは愚行と決めているものの、心配性のモエ子は我慢できないこともしばしばあるようです。或る朝、彼が「今日のコーヒー不味い!」と苦言を呈します。そこで発するモエ子のコーヒーへのうん蓄が愉快で笑えます。2022/01/04
ふじさん
104
コーヒーを入れたらピカイチのテレビの人気女優の坂井モエ子、コーヒーが縁で彼女と同棲生活をすることになった冴えない舞台装置家のベンちゃん、二人をを取り巻くコーヒー愛好家が集う日本可否会のメンバーが繰り広げるテレビ創成期を思わせるドタバタ劇を軽妙なタッチで描いた作品。コーヒーを媒介にした良き昭和を感じさせる人間味溢れた人々が織りなすちょっとバカバカしい恋愛ユーモア青春小説。昭和の懐かしさがいっぱいのほのぼのとした読後感が残る作品。 2021/12/06
アン
101
テレビドラマが普及し、お茶の間の人気女優となった坂井モエ子43歳。彼女はコーヒーを美味しく淹れる天才で、演劇に情熱を注ぐ年下の夫は最大の礼讃者でしたが、突然「生活革命」を宣言し若い女優のもとへ。コーヒーが縁となり、人間味溢れる登場人物達が織り成す日常が、昭和の風情を漂わせながらユーモアを滲ませた軽妙なリズム感のある文体で綴られます。モエ子の心ゆらめく様はどこか可憐でもあり、自分を見つめ、今後の人生を選び取る姿は凛としてしなやかで。モエ子の淹れるまろやかなコーヒーを味わいたくなるノスタルジックな恋愛小説。 2022/04/05