内容説明
「仄聞するところによると、ある老詩人が長い歳月をかけて執筆している日記は嘘の日記だそうである。僕はその話を聞いて、その人の孤独にふれる思いがした」(落穂拾い)明治の匂いの残る浅草に育ち、純粋無比の作品を遺して短い生涯を終えた小山清。不遇をかこちながら、心あたたまる作品を書き続けた作家の代表作を文庫化。いまなお新しい、清らかな祈りのような作品集。
著者等紹介
小山清[コヤマキヨシ]
1911‐1965年。作家。東京浅草の生まれ。新聞配達などの職についたのち、1940年に太宰治を訪ね、以後師事する。太宰の死後、作家に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobby
136
あー、分かってはいたけど文学は不得意だ…私小説として読む静かな日常に深み感じるセンス持ち合わせず退屈さが上回る自分が残念…手に取ったきっかけはビブリア①エピソードが印象的だったから。それなら新潮文庫版で読むべきだったとまた後悔…「落穂拾い」はタイトルに全く関係なく進む展開に最後なるほど!栞子さんと重なる設定に三上さんが最初に取り上げたのにも納得♬「犬の生活」での妙に捨て犬に愛情そそぎハシャぐ筆者が微笑ましい(笑)今作は時間をかけて一篇毎を味わうべきかな。続けて読むと作家の生活を繰り返し読むだけになるから…2020/12/05
今ごろになって『虎に翼』を観ているおじさん・寺
85
文学者とは、あるところに誰一人良く言う者がいない人が散々な噂を立てられる中「すると突如その群の中から、『いや、僕はそう思わない、あの男にだっていいところがあるよ。』ために座が白らけてしまうのもかまわずに云い放つ人がいるんだ。その人が文学者だ。」(本書収録『メフィスト』より引用)。小山清の言う通りだと思う。小さくとも何らかの感動を与える作品には必ずちょっとした勇気があって、それに心が感応するのだと思う。この文庫には小山清が出した作品集4冊中の2冊分が入っている。どれも小さな勇気が優しさを纏っている。お薦め。2019/08/15
吉田あや
80
太宰に師事していただけに、思考や文体に太宰と似た色を随所に滲ませながらも、濁りに染まぬ光を放つ清水のような澄んだ心根を宿す小山清の短篇たち。アンデルセンになりきり、母への書簡に仕立てた〈聖・アンデルセン〉。友である月を介して母と繋がり、アンデルセンの清さに我が心を重ねる筆致がこの上なく美しい。何気ない日常の中の心躍るひとこまがミレーの名画と渾然一体となり、恍惚とした景色を思わせる〈落穂拾い〉。葛藤・鬱屈の中にありながらも清浄なる想いが見える作品が特に心に残った。(⇒)2020/06/23
aika
59
小山清という人は、不器用で優しい、愛すべきどうしようもない人だと思いました。作家が歩んだ波乱と苦渋に満ちた人生とは裏腹に、幼き頃の浅草での、家族や周囲の人たちとの懐かしい思い出、淡い恋、新聞配達に精を出した日々、師匠太宰との関係などが淡色に感じます。単調なようで、そこには美しく静かなきらめきがあり、そこに生きる人々の息づかいが聞こえてきます。家業の傾き、学業の挫折、独房での暮らしなどの苦節でさえも、穏やかな筆致で描かれていて、爽やかで愁いのある私小説です。お気に入りは「早春」「メフィスト」です。2018/01/10
優希
49
著者の私生活を元にして描かれた短編集でした。淡々とした日常が語られていながらも、その穏やかな作風は砂に水が満ちていくように潤いを感じます。2022/05/24