出版社内容情報
染織家・志村ふくみが、半世紀以上前から染めて織った布の端裂を貼りためたものと、仕事への思いあふれる文章で綴る、色と織の見本帳。
内容説明
織物をはじめた頃から、染めて織った布の端裂を、貼りためておいた著者の『小裂帖』。本にすることは「まるで長らく書き溜めた日記を公表してしまうような逡巡を覚える」。そこから選んだ小裂たちと、色、糸、織、仕事への、思いあふれる文章で綴る。草木から絶妙の加減で抽出し、絹糸に吸わせた色の鮮やかさ、織の妙味を、製版・印刷技術の粋をもって再現。日本の色と織の見本帳とも言える一冊。
目次
母と小裂の思い出
自然現象を織りこむ―暈し
蘇芳
紅花、茜
藍、緑
伝えるということ
色―言葉では最も表現しにくいもの
アルカイックな織物
春の野草
紅花の再発見
玉葱
紫の象徴〔ほか〕
著者等紹介
志村ふくみ[シムラフクミ]
1924年滋賀県近江八幡生まれ。55年、植物染料による染織を始める。57年、第四回日本伝統工芸展に初出品で入選。第五回展から第八回展まで、紬織着物により特選を受賞。83年『一色一生』(求龍堂)により大佛次郎賞受賞。86年、紫綬褒章受章。90年、紬織の優れた染織技術により国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。93年、文化功労者。『語りかける花』(人文書院 ちくま文庫)により日本エッセイスト・クラブ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちゃちゃ
113
大切に残され集められた小裂たちは、静かに語りかける。自然からいただいた色の、豊かさ、優しさ、厳しさ、強さを。染められ織りなされた裂たちは、なんと優美で気品ある色を奏でていることだろう。その天から授かった植物の精のような色を前に、しばし言葉を失う。本書は、染織家の志村さんが、織物を始めた1960年頃から30年余りの間に集めた小裂帖である。寄る年波に老いを感じつつも、飽くなき探究心でまだ見ぬ深みへと挑戦される志村さん。その求道の姿勢は、私の中にある淀みを浄化し厳しく姿勢を正してくれる。2020年読み納め。2020/12/31
アルピニア
60
志村さんは、織物を始めた1960年頃から、織物の残り裂を大切に小裂帳に貼って保存しているそうだ。その中から選んだ「小裂」の写真とそれに添えられた文章から成る一冊。特に心に残ったのは「媒染のはなし」。媒染液に浸すと微妙な色相の変化が現れ、心の中の秤の針が「もう少し」とか「そこで決まり」とか微妙に揺れ動くという。だからこそ、染める人のその時の心を映し出すのだろう。志村さんの一度きりの心がとどめ置かれた小裂たちは私の心の深層に語りかけてくる感じがする。今までは青系の色にばかり目がいっていたが、緑系にも惹かれた。2020/02/20
アマヤドリ
13
最後のページの裂はあの日やあの日の明ける空を待つ海の境のよう。2013/03/03
双海(ふたみ)
9
織物をはじめた頃から、染めて織った布の端裂を、貼りためておいた著者の『小裂帖』。本にすることは「まるで長らく書き溜めた日記を公表してしまうような逡巡を覚える」という。そこから選んだ小裂たちと、色、糸、織、仕事への、思いあふれる文章で綴る。日本の色と織の見本帳とも言える一冊である。2023/11/29
takakomama
7
著者が織ったものの残り裂を貼った「小裂帖」とエッセイ。色と言葉の二重唱。草木染めは、どれも優しい色ですが、蘇芳は燃え上る炎のように強い色。開発が進んで、植物の生きる場所が減ってしまうのは悲しいです。色を文章で表現するのは難しいですね。著者と石牟礼道子さんの対談と往復書簡「遺言」を読んで再読。2022/09/11