内容説明
満洲での少年時代。江田島の海軍兵学校で原爆投下を目撃した日。焼け跡の東京でテキ屋の手先だった頃。そして著述と翻訳に没頭した時代…。昭和20年夏、焼きつくされた街に放り出された海軍兵学校帰りの17歳の少年は、なぜハイデガーの『存在と時間』に魅かれるようになったのか。高名な哲学者が人々との出会いと読書体験を軸に、波乱に富んだ人生を縦横に語る。
目次
父のこと、満洲のこと
江田島へ
焼け跡の街で
ぼくは運び屋だった
青春彷徨
勉強したくなった
東北大学で
『存在と時間』をはじめて読んだ頃
ハイデガーへの回り道
先生たち
ハイデガーがわかる
現象学とは何か
ぼくが書いた本
翻訳について
自分のこと、健康のこと
読書会のこと
友人たち
著者等紹介
木田元[キダゲン]
1928年生まれ。山形県出身。東北大学文学部卒業。中央大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネムル
20
なんだ、このおもろすぎるタイトルは⁉とて読んでみたら、やっぱりおもろかった。戦後の混乱を経て、勉強熱を爆発させて哲学者として歩む半生を見るに、もし父親のシベリアからの帰還が遅れて闇屋を続けたとしても、功成り遂げたろうなということが察せられてしまう。己を「ケンカのプロ」と言いきってしまうくらいに、バイタリティー溢れる先生はとにかくカッコいい。というか、若かりし頃の写真が載ってるが、マジでイケメンだったりする。あと同郷として横光利一や丸谷才一、現代なら奥泉光といった作家を育んだ山形県鶴岡という地が興味深い。2017/10/01
うえ
10
実によい。何がよいって、表紙はともかく、109Pと123Pの写真がすばらしい。著者26歳、30歳の時の写真である。つまり本の中身自体はまあファンなら聞いたことがあるエピソードなのだが、とにかく写真がよいのである。「人間諸科学が哲学と決別するときに、物理学から方法論を借りてきます…そうすることで、科学として自立できると考えました。その武器となったのが要素還元主義です。物理学では、どんな複雑な現象でも単純な要素に還元し、そこから元の現象を復元できれば、その現象が理解されたと考えます(それを)適用しようとした」2016/10/18
masawo
9
内容的には著者の自伝だが、現象学周辺の流れ・つながりについてのポイントを押さえた解説がとても参考になる一冊。人間的にはクセがありすぎるものの、研究者としてはマジ半端ない著者のような逸材はこの先我が国に現れるか否か、見通しは暗いと思う。2020/01/05
小鈴
9
メルロポンティの翻訳者として有名な哲学者くらいの認識しかなかったのだが。闇屋で稼いだカネをはたいて農業専門学校でハイデガーに出会い、哲学者となった人生について語る。大学後の話は、日本におけるハイデガーや現象学の受容のあり方を平易な言葉で読める。しかし、大学以前は札付きの悪であり、家族を食わすために稼ぐ商才もあり、そのことを楽しそうに書いてるわけだが、実務家であり現実主義者の木田の絶望は深かったのだろう。そんなことは書きやしませんが。男らしい体育会系な木田の哲学人生を堪能できる一冊。 2010/09/11
yamatoshiuruhashi
8
ハイデガーといえば木田元。今年亡くなった著者の自伝。あの大哲学者がこのような経歴だとは思ってもいなかった。哲学に関する記述がないわけではないが、そこについてはわざわざ本書で読む必要もない。「勉強」すること、語学についての人並み外れた努力に関する話に深く深く感銘を受けた。息子たちに送ることにする。2014/09/20