内容説明
『さくら』で彗星のように華やかなデビューを飾った西加奈子の第4作にあたる長編小説。冬の大阪ミナミの町を舞台にして、若々しく勢いのある文体で、人情の機微がていねいに描かれていく。天性の物語作者ならではの語り口に、最初から最後までグイグイと引き込まれるように読み進み、クライマックスでは深い感動が訪れる。このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語。この作品で第24回織田作之助賞を受賞している。
著者等紹介
西加奈子[ニシカナコ]
1977年、テヘランで生まれ、エジプトで育った。その後、大阪で生活し、関西大学法学部を卒業。2004年『あおい』(小学館)でデビュー、05年『さくら』(小学館)が大ベストセラーになる。2007年、『通天閣』で第24回織田作之助賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
318
『連綿と続く、死ぬまでの時間を、飲み下すようにやり過ごしているだけだ』と、救いようのない描写の連続に気持ちが滅入っていくこの作品。その一方でそれでも前を向き、それぞれの人生を今日も確かに歩んでいく人々の力強い姿を確かに見るこの作品。『ゆっくりでええから、坂上ろう。きっと綺麗な通天閣が、見えるから。ほんでチーフも、いつか、この高みから、いつかの自分を、見下ろせる日が来るから』と、印象的なシーンの背景に必ず登場する「通天閣」。その足元で今日も生きる人々のささやかな人生の一コマを見た、そんな印象深い作品でした。2021/12/18
ehirano1
295
2人の語り手の関係が分かった時は、直接的な再開や展開を期待したのですが、そこは敢えてそうさせないのが西さんなんだなと思いました。あとからジワジワくる作品でした。2018/03/17
❁かな❁
230
大好きな西加奈子さんの作品を読むのは14作目。やっぱり西さん温かいなぁ(´▽`*)今作もすごくいいです!大阪ミナミを舞台にした2人の主人公の物語。めっちゃディープな界隈のお話で登場人物もなかなか濃かったです(笑)主人公達は夢も希望もなくし生活している。リアルに日常が描かれていて辛い現実に痛々しく切なくなる。大阪弁が心地よく、笑ってしまうところや涙してしまうところもあり後半とても感動★解説は津村記久子さん♪変わりない人生でも受容し前に進んで行こうと思い、生きる希望を与えてくれるような愛おしく温かい物語♡2015/11/15
まさきち
206
海外に旅立った恋人に振られて打ちひしがれている女。工場勤務をしながら鬱々と単調な毎日を送る男。二人の共通点は唯一通天閣周辺が暮らしの舞台という点。そんな二人が結ばれるのかと思いきや、物語は意外な結末を迎える。そんな中で印象的だったのがあの街独特の匂いと、そこで暮らす人々が醸し出す空気感をまざまざと思い起こさせてくれた数々の表現達。そして舞台があの街だったからこそ、読後にあたたかい気持ちをいだけたのだと納得し、またいい本に出会えたと思っての読了です。2024/04/19
にいにい
190
西さんの作品の中でも特に大阪の「濃い」人達が織りなす「人生とは」の話。大阪でも通天閣周辺はさらに異なる空気感。日々をこなすだけの生き方、微かな望みに縋る生き方、その切なさ、不安や焦燥が滲み出してくる。悪態や強がりで誤魔化しても、悪夢や絶望が襲う。でも、通天閣がある。天に通じる魔法の建物。どん底でも生きる力。どうしようもないことに変わりないが、生きてはいける。諦めない事が大切だとか、変わらない人生も愛おしいとか思える。不思議な感覚を与えてくれる人間くさい一冊。生きてりゃいいこともあるかも。2015/10/29