内容説明
フラナリー・オコナーは20代半ばから亡くなるまで、アメリカ南部の農園で母とともに暮らした。難病と戦いながらも、午前中の数時間を必ず執筆にあてた。南部の人々を多く描いたが、その目は全世界を見捉えていた。O・ヘンリー賞を生涯で4度受賞し、短篇の名手と賞賛される。下巻は、死後刊行の短篇集『すべて上昇するものは一点に集まる』と後期作品2点、年譜、訳者あとがきを収録。
著者等紹介
オコナー,フラナリー[オコナー,フラナリー][O’Connor,Flannery]
1925‐1964。アメリカの作家。アメリカ南部ジョージア州で育つ。O・ヘンリー賞を4回受賞し、短篇の名手として知られる
横山貞子[ヨコヤマサダコ]
1931年生まれ。京都精華大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
62
「すべて上昇するものは一点に集まる」は「黒人は可哀想だから慈悲が必要だ」という白人老婦人とその偽善を軽蔑するインテリの息子が中心。結局、息子の思う通りになったけど、母親はそのショックに耐え切れず、心が壊れ、幼児返りしてしまうというショッキングで実は身近だからこそ、恐ろしい幕引きで〆ているのが秀逸。「森の景色」は「老人=伝統、若者=新文化」という概念を逆転したジェネレーションギャップに加え、婿が黒人であることへの嫌悪感による悲劇は眼を覆うほど酷い。でも「長引く悪寒」は私も主人公が死んだと思い込んでいましたw2015/11/07
かわうそ
36
偽善かもしれないけどそこまで悪意はないのにという人や単に心が弱かっただけじゃないかという人にも容赦なく裁きが下され、一篇読み終えるたびに鈍器で殴られるような衝撃を受ける。人生における原因と結果の不均衡についてつらつらと考えてしまった。2018/08/25
秋 眉雄
28
コロナ療養期間前半、何もする気にならず、ただただ目を閉じていたのですが、それにもだんだんと飽きてきてうっかりと手を伸ばしてしまったのがこの一冊。イヤな奴が出てきてイヤな展開になりイヤな結末をむかえる。いつの間にかコロナ感染の憂鬱さはどっか行ってしまい、別の意味でうんうんと唸り、イヤな汗が出てしまうのでありました。『こんなに遠くまで見渡せる景色はパーカーの気を沈ませた。遠くひろがる景色を見ると、だれかが追いかけてくるような気がする。海軍とか、政府とか、宗教とか。』2022/03/07
三柴ゆよし
27
読書会課題本。再読。輓近、ここまでストレートに突き刺さる小説はなかった。個人的には「グリーンリーフ」「障害者優先」など後期の作品に心惹かれたが、ほとんどすべての短篇に電雷のような衝撃を受けた。最高度に完成された作品群は、これが主にアメリカ南部の片田舎を描いた小説であることを忘れさせ、読者の内部に潜む欺瞞を普遍的に抉り出す。私のなかのおばあちゃんが、はみ出しものが、ミセス・グリーンリーフが、ミスタ・パラダイスが、眠れぬ夜のしじまでうごめき出す。世界の悪意に翻弄されて、それでもみんな祈っているのだ。2019/11/26
三柴ゆよし
26
「善人はなかなかいない」ばかりフィーチャーされがちだが、むしろ下巻収録の後期作品のほうに円熟した短篇作家としての本領をみたように思う。登場人物を待ち受ける不条理な結末、という紋切型の評は一度脇において読むと、とにかく予兆と暗示の技法に秀でており、彼らがどこで、なにをかけちがえたがわかるように書かれている。南部作家の代表選手みたいに語られがちでも、土台にあるのはカトリックの信仰というのも特異で、南部の土着性(プロテスタント的な)を描きつつ、そこに根本的な帰属意識を持っていないところがおもしろい。熟読推奨。2019/09/21