内容説明
26歳、才色兼備の朝日奈まゆみはジャズバンドのマネージャーだが、根っからのアメリカ嫌い。彼女の恋人五郎は過激な右翼団体の塾生だったが、敗戦と共に切腹したという。ジャズバンドに打ち込むことで辛さをまぎらわそうとしていたまゆみの下へ届けられた、一本の白檀の扇が運命を変える。敗戦後の復興著しい東京を舞台に、戦争に翻弄される男女の運命を描く。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925-1970。本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、“三島由紀夫”のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
138
数ある三島の作品の中ではマイナーな部類に属する長編。1954年に「主婦の友」に連載されていたらしい。そして、これは三島には珍しい風俗小説でもある。'54年当時の東京は、こんなだったのかと偲ばれる。コパカバーナやジプシー(実名ではないとしても雰囲気はおそらくこんな風だっただろう)といった夜毎にアメリカ人の男女が集うキャバレー。店の中は煙草の煙と音楽と踊り。そしてジャズバンド。序章からすると、三島は連載小説の場合にも、細部はともかく全体の構想を先に立てていたことが分かる。また、三島の本質は、やはり小説家だ。2012/10/28
青蓮
103
1954年に「主婦の友」に連載された作品ということで、三島由紀夫の作品としては軽く読める部類に入る。ジャズバンドのマネージャーを勤めるまゆみには忘れられない恋人がいた。彼は敗戦と共に切腹して死んだはずだったのだかーー敗戦後の復興著しい東京を舞台に描かれるモダンな若者達の恋愛模様。煌びやかな夜のネオンに響き渡る軽快な音楽、紫煙に紛れて踊るダンス。まるでドラマを見ているようで面白く読みましたが、三島が持つ鋭利な剃刀のような切れ味はなく、何となく物足りない気も。しかし色々なカラーの作品を書けるその才能には脱帽。2016/07/25
優希
99
面白かったです。ラブコメ全開で爽やかさがありました。ジャズバンドを背景に織り成す恋模様は、戦争に翻弄される男女の運命ではありますが、何処か華やかさを感じさせます。亡き恋人の面影を胸に、その辛さを音楽へと昇華させるまゆみ。しかし、音楽は軽やかに、目の前に現れた千葉にほのかな想いを抱いたり、坂口に想われたりと恋のワルツを流していくのが憎いところです。可愛くてロマンチックな恋物語でした。2016/11/10
masa@レビューお休み中
97
ジャズの音、人々の喧騒、東京の街…。見たことのない景色なのに、映像がはっきりと脳裏に浮かんでくる。戦後の復興期の東京の街の物語は、賑やかで楽しくて、どこか物悲しさを伴う。下衆な男女のやりとりがあるかと思えば、純粋無垢な恋の想いが出てきたりもする。軽躁的な街の華やかさとは裏腹に、どこか人々の心には仄暗さが付きまとっている感じがする。それが、誰でも受け入れてくれる東京の街の器なのかもしれない。恋の都は、今も昔も変わらずここにあるのだ。2017/01/07
じいじ
84
読み終えて、三島小説にも一度も辞書を開かなくても読める小説があるんだ、と思いました。改めて、三島由紀夫の懐の広さを見ました。これは恋する女性たちに贈る、三島由紀夫からの応援歌ーラブコメディです。主人公は6人組ジャズバンドの敏腕マネージャー:朝比奈まゆみ26歳。男にモテモテの女奮戦記です。くどくどとジジイの中身紹介はほどほどにして…。戦後の日本女性を念頭に書き上げた一作、三島小説の登竜門になさっては如何でしょうか。2023/07/05