内容説明
“私は今度、古都について書くことになった”と始まる第一章「ひともする古都巡礼を」は単なる古都めぐりではない。旅行嫌いの茉莉は写真を見て、思考のおもむくままに、時には脱線し、飛躍しつつ、心に宿る情緒の源としての日本の古都を綴る。第二章では、パリに関することへの思いを、まるで恋人を見るかのような情熱的な眼差しで語る。日本と西洋、この両者に対する感情の流れに茉莉の二様の魅力が味わえるアンソロジー。
目次
ひともする古都巡礼を(古都と私との繋がり;京都・お正月;残雪;屏風・桜;東照宮の眠り猫 ほか)
巴里と魔利(仏蘭西語のハムレット―バロオ日本公演をみて;演奏会の思い出;「ロートレック展」をみて;エロティシズムと魔と薔薇;ロココの夢―「十八世紀フランス美術展」の下見 ほか)
著者等紹介
森茉莉[モリマリ]
1903‐87。東京生まれ。森鴎外の長女。二度の離婚の後、1957年父を憧憬する娘の感情を繊細な文体で描いた随筆集『父の帽子』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、50歳を過ぎて作家としてスタートした。著書に『恋人たちの森』(田村俊子賞)『甘い蜜の部屋』(泉鏡花賞)など
小島千加子[コジマチカコ]
東京生まれ。日本女子大学国文科卒業。1948年新潮社入社、88年退社。その間、一貫して「新潮」の編集に携わり、多くの作家の作品を世に送り出す(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
奏市
14
初めてこの著者の本を読んだ。結構話があちこちに飛び、昔の言葉遣いも多く、伝統文化についてなどは知識不足で話についていけない部分もあったが、興味深かったり面白い内容多く、別のエッセイも読んでみたいと思った。大方は京都に纏わる話、パリを主とする西洋に関する話の2部構成。父鴎外とか歴代天皇に関するエピソードは興味を引いた。「私は幼時私だけの神をもっていて、父親とその神とが一体になっていた」。映画の話も多く『ベケット』というの見てみたい。鶸色(ひわいろ)って色があるのか。落ち着いたレモンイエローみたいな良い色。2023/01/08
まゆら
14
一章は日本の古都について。二章は海外の興味のある事についてのエッセイ。元々は古都を旅して綴る筈だった『ひともする古都巡礼』を旅嫌いの森茉莉は現地へ赴かずに思い出と写真を見て書いたものを、そのままのタイトルで連載したそうです。さすが森茉莉。二章のヨーロッパや愛する巴里の事について熱く語る森茉莉が活き活きとしていてとてもいい。まさしく行かずして思い出のみで書き上げた、脱線だらけの空想旅行がとても、らしくて愉しかった。小島千加子氏の森茉莉評も的確でハッとした。2016/10/27
amanon
5
ファザコンを拗らせ中二病を引きずった女性の戯言…と言ってしまえばそれだけだが、これが妙にハマってしまうのだから、不思議というか面白いというか。恐らくろくに文章を指導されたことがないのでは?と思えるほどのある意味破格の文体(特にやたら長い挿入文がいや!というほど頻出する)に加えて、やたら話題がくるくる変わる。それでもなぜか面白く読めてしまうのだから、まさに破格の才能か?また、父鴎外を始めとす森家の実像が見えてくるのが、非常に興味深い。とりわけ印象的だったのが、鴎外の親バカぶり。ファザコンを拗らすのも納得。2024/05/21
今ごろになって『虎に翼』を観ているおじさん・寺
5
前半は旅行嫌いの森茉莉が京都の写真を見て綴った古都巡礼。古都巡礼と言っても、ほとんど毎度お馴染み鴎外と少女時代とフランスの思い出話に着地する(笑)。決して他人の土俵に上がらない姿勢には驚く。後半はヨーロッパ関連のエッセイ集。こちらの方が面白い。一年間のフランス生活が彼女の最大の武器だったとつくづく思う。旅行嫌いの一年の海外旅行は、活発な人の留学なんぞとは比べものにならない冒険であっただろうな。2012/03/26
のんき
2
第一章は芸術新潮連載の「ひともする古都巡礼を」第二章は「巴里と魔利」とタイトルを付けてヨーロッパ関係のエッセイを集めたエッセイ集、小島千加子編。第一章の方を読んでみたかったのでそれがかなって嬉しい。「古都」っぽいことを冒頭部に書くものの、あとは森茉莉の世界一色に。このスタイルで12回一年通したのはあっぱれ。2011/10/28