内容説明
「かなしき女王」とは、ケルト神話の女戦士スカァアのこと。スカイ島の名の由来となったとされる、この美しく猛々しい女王と英雄クウフリンの恋と戦いの物語こそ、スコティッシュ・ケルトを代表する物語である。輪廻転生を信じる土着信仰ドルイドと古代キリスト教が入り交じった幻想的な短篇12篇に、新たに戯曲「ウスナの家」を収録。いずれも松村みね子の名訳による。
著者等紹介
マクラウド,フィオナ[マクラウド,フィオナ][Macleod,Fiona]
1856‐1905。本名ウィリアム・シャープ。英国スコットランドのグラスゴー生まれ。若い頃からゲールの幻想物語に興味を持ち、1892年『異教評論(ベーガン・レヴュー)』出版を皮切りにケルト文化復興の活動を始める。シャープ名でオカルト研究に従事する一方、マクラウド名で幻想物語を発表。死後同一人物であることが明らかにされた
松村みね子[マツムラミネコ]
1878‐1957。本名片山廣子。東京麻布生まれ。東洋英和女学校卒業後、佐佐木信綱に師事し、歌人として活躍する。一方、大正5(1916)年頃より、ダンセイニ、シング、マクラウドなどアイルランド文学の翻訳にも従事。森鴎外、上田敏、坪内逍遙、菊池寛らに高く評価され、また堀辰雄『聖家族』のモデルとされる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
80
ケルト神話を題材にした作品集で、中でも中編の『精』と『琴』が面白い。『精』:カアルはキリスト教から捨てられたが、樹の中にいる聖者の仲間(樹の妖精)となる話です。これで思い出したのがハイデッカーが『存在と時間』を書いたのち山小屋で隠遁生活を送っていた事。『琴』は楽器の名手が魔力で妻を殺すという話。翻訳は歌人でもあった松村みね子によるもので品のある文です。2015/09/11
井月 奎(いづき けい)
35
短編集とありますが最後の戯曲「ウスナの家」を除く十二編はそれぞれが関係しています。そこに流れるのは冷たく透明に輝く滅びへの流れです。ケルトというのはその名残を今もヨーロッパにとどめて、欧州の人たちだけではなく世界中の幻想譚好きや神話好きの心をとらえています。フィオナ・マクラウドの描く血塗られながらも静かな時間は消え去った人々の心の情景なのでしょうか。たぶん人は誰でも共通の記憶として「滅び」があると思います。そしてケルトの物語は人の世がある限り、私たちの共通の悲しみに寄り添っているのでしょう。2020/11/22
あ げ こ
11
内包する残酷な光さえ、濁りなく。何と美しく、清澄な世界だろう。色豊かに巡り、悠然と移ろう自然。命あるものの生き死に、感情の揺らぎ、愚かしく、勇ましく、慕わしい人々の相貌。その一つ一つ、一瞬一瞬より溢れ出でるものを見逃さず、掬い上げるよう、溢れ落ちて行くものの、儚い煌めきを忘れぬよう、たっぷりと、言葉を紡ぐ。御すること、殉ずること、信ずること。時に帯びる暗い輝きまで、殺すことなく捉えるため、敬虔に、清廉に、物語へと寄り添わせた言葉。満ちて行く色は淡く、荒々しく染まった息遣いさえ、柔らかに運ぶ。2015/04/29
rinakko
8
再読。素晴らしかった。ケルトの神話や伝承に根差した創作であり、それらの変奏でもある。遠からず滅びゆく小昏いケルトの世界、その美と不思議と神秘の輝きを惜しみ、幻となる民への深い哀憐と愛着の眼差しが注がれている。伝説の男女は眩いほどの美貌に生まれ、狂気の如き恋情に捕らわれて全てを焼き滅ぼさんとする。キリストを讃えながらも異教の夢から醒めることもなく、彼らの矛盾の瑕は時に儚く時に禍々しく美しい。とりわけ好きなのは表題作(恐ろしき “かなしき女王” だ)や「精」、「約束」、「琴」、戯曲「ウスナの家」。2025/03/18
topo
6
幻想的な音楽の調べのように美しく、荘厳で色彩の煌めきに目を奪われる絵画のように美しい。 ケルト神話の持つ神秘、影、残酷で美しい幻想的な世界が甦る。 猛々しくも美しい神々と妖精の息吹を感じるケルト幻想作品集。2019/07/15