内容説明
物干台で凧を揚げていて、東京初空襲の米軍機に遭遇した話。戦中にも通っていた寄席や映画館や劇場。一人旅をする中学生の便宜をはかってくれる駅長の優しさ。墓地で束の間、情を交わす男女のせつなさ。少年の目に映った戦時下東京の庶民生活をいきいきと綴る。抑制の効いた文章の行間から、その時代を生きた人びとの息づかいが、ヒシヒシと伝わってくる。六十年の時を超えて鮮やかに蘇る、戦中戦後の熱い記憶。
目次
空襲のこと
電車、列車のこと
石鹸、煙草
土中の世界
ひそかな楽しみ
蚊、虱…
歪んだ生活
戦争と男と女
人それぞれの戦い
乗り物さまざま
食物との戦い
中学生の一人旅
進駐軍
ガード下
父の納骨
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年生まれ。作家。芸術院会員。1965年『星への旅』で太宰治賞受賞。『戦艦武蔵』、『高熱隧道』で人気作家の地位を不動にする。菊池寛賞、吉川英治文学賞(『ふぉん・しいほるとの娘』)、読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(『破獄』)、毎日芸術賞(『冷たい夏、暑い夏』)、日本芸術院賞、大仏次郎賞(『天狗争乱』)などを受賞している
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nnpusnsn1945
67
自粛生活と戦時中の生活は重なる部分が多い気がした。非常時には人情にも変化するらしい。(顔馴染みの八百屋も、金目の物を出さなければ売ってくれなくなった。)オイルショックのトイレットペーパー不足も現在と似ている。空襲の経験、それに便乗したビジネスもあるらしい。(水道管や金庫の密売など)戦後は食糧不足も深刻で餓死者が出たが、なぜか子供と女性は少なく、老人が犠牲になったそうだ。著者は東京裁判には否定的な見解らしい。ただ、裁き方が雑でも、戦犯に全くの責任なしとは言えないだろうが。2021/04/24
Shoji
50
戦争文学を多く世に送り出してきた吉村昭さんによる、戦争を題材にしたエッセイです。吉村昭さんの青春時代はまさに戦争の時代でした。空襲のお話、初めて米軍の戦闘機を見たお話、戦中戦後の物資のない時代のお話、親の死のお話などを回想しては淡々と綴っています。物語には濃淡もなければ、悲しみも喜びもありません。まさに淡々と綴られています。しかし、心にすっと沁み込んで行きました。戦争の記録として長く読み継がれて欲しい一冊だと思いました。2021/09/14
mondo
49
吉村昭の記録文学の中でも多くの著作があるのが戦争ものだが、吉村昭がどのように戦時下を過ごし、著作に反映されているのか興味があった。驚くほどに詳細に当時のことを記憶されていることにまず驚かされた。一方で冷めたような描写も気になった。「進駐軍」という短編の最後に「私は、ほとんど無気力だった」と締めくくっているように、自分の目に映っているものが、無意味で、空虚な、愚かしい事実でしかなく、抗うこともできない社会だったからなのだろう。多くの人が感じていたに違いない。あらためて悍ましい時代だったと思った。2020/12/03
金吾
46
○当時中学生であった著者が見た戦時下の東京が書かれています。淡々とした書き方ですが、空襲や敵航空機の描写等臨場感に溢れています。「戦時中は軍と警察が恐ろしかったと言われているが、私の実感としては隣近所の人の眼の方が恐ろしかった。」「敗戦で最も驚いたのは新聞、ラジオ放送の論調が一変したことである。」は印象に残る言葉でした。2024/03/05
馨
46
吉村さんご自身の東京で経験した大東亜戦争と、見てきた戦後の日本を淡々と綴られています。読みやすくてスラスラ読めました。戦後年月が経って語れる人が少なくなった今自分が見てきた戦争(東京の町)をそのまま記録に残したいと、偏りや湾曲なく、見たままに思ったままを書かれていて、読んで良かったです。2015/03/07