内容説明
昭和16年、新兵として歩兵第101連隊第一機関銃中隊に入隊した秋本青年、のちの春風亭柳昇。三年間の内地勤務の後動員令が下り、その身は中国大陸へ。着いたところはちっとも華々しくない、新聞に載らない二流、三流どころの戦場。そこで彼を待ち受けていた悲しくおかしい命がけの運命とは!出撃から玉砕未遂で終戦までを克明に、軽妙に描いた、名著の呼び声高い作品の復活。
目次
1 初年兵はツラいの巻
2 ここはお国を何百里の巻
3 矢でも鉄砲でも持って来いの巻
4 独立与太郎隊出撃の巻
5 陸の勇士海で戦うの巻
6 激戦、敗戦、皇軍斜陽の巻
7 玉砕未遂で終戦の巻
著者等紹介
春風亭柳昇[シュンプウテイリュウショウ]
1920年東京生まれ。本名秋本安雄。第二次世界大戦に陸軍歩兵として従軍。六代目春風亭柳橋の長男と戦友だった縁で、復員後の1946年入門。柳之助で前座。二つ目昇進で柳昇。1958年真打ち。新作落語を得意とした。日本演芸家連合会長、落語芸術協会理事長などを歴任。1982年芸術祭優秀賞、1990年勲四等瑞宝章受章。2003年6月、胃がんのため没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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道楽モン
40
昭和の大看板新作落語家による従軍記録。自身でも同名の新作落語として演じていたが、本となると格別の面白さがある。噺家なので面白おかしく書いてはいるが、その裏には、軍部や右翼による国民洗脳がいかに市井の国民に受け取られていたのかが伺い知れる。庶民たちは決して日本軍の言葉を鵜呑みにしていなかったのだ。大いなる疑問符を心に抱え、祖国と家族を守るために戦地に赴き、死を隣りに軍隊での生活を送っていた。復員後に落語になる様な理不尽でバカバカしい軍隊生活。数々のエピソードに笑いながら、戦争について考えさせられる一冊だ。2025/01/23
chanvesa
26
カラオケ病院や結婚式風景といった新作や、「大きなことを言うようですが…」という名台詞が印象的で、私が中高生のときによくテレビやラジオに出ていて人気があった柳昇師匠の雰囲気とは少し異なる語り口である。回想録なのにギラギラしているのだ。戦争に翻弄される自身を面白おかしく描くにせよ、『スローターハウス5』のように操り人形のように描かれるのではなく、シニカルでありながら欲に正直な人間として描かれる。鶴見氏の解説の冒頭に日本の全体主義にはヒトラーが登場しなかった云々とあるが、日比谷焼打事件や関東大震災後の自警団2017/04/01
ぺぱごじら
20
子供の頃、戦争の話というとお爺さん世代からは、色んな話が出てきたけれど、その多くは案外暢気な話が多く、父母やその同世代である先生から伝え聞く悲しい、酷い話は余りなかった。で、多分どちらも『本当の話』だったのだ。柳昇さんの話は『どっかの会社に入社してから倒産まで』を平社員視点で描いているような気楽さがあります。客観的に軍隊の日常が、それ以外よりお気楽な筈はないのですが『気苦労も日常』になると苦労ではなくなる、という『人間の適応力の高さ』を強く感じた。多分お爺さん達もそうだったのだろう。2013-812013/06/08
ブラックジャケット
17
徴兵制とは根こそぎなので様々な兵隊物語となるようだ。「真空地帯」とは対極の噺家春風亭柳昇の「与太郎戦記」私の父親世代の人で尋常高等小卒も同じ。辛酸をなめた訳だが、軽妙なタッチは噺家ならのもの。新作落語も作る人らしく、目の付け所も違う。新兵イジメから中隊長の愛妾へ。軍隊生活の摩訶不思議。末端の兵士は何も知らされず、戦争はすべて虫の兵士視点。回りでバタバタ戦死しても、感覚が麻痺するというのもリアル。感傷的になれば危機予知能力は落ちる。後半の海上戦闘では戦死者累々で、自身も両手戦傷。 それでも青春と言い切る。 2023/08/15
ステビア
12
落語家が語る自らの従軍体験。軽妙な語り口が魅力的だ。2018/12/22