内容説明
「目指す人間とは何であるか?それはこの自分自身である。固有の色合いがある、振動的な、即ち生きている、真鍮の砲弾や花火仕掛の海戦に心を惹かれている自己自身である」(「弥勒」)。昭和七年明石に帰省した足穂は、昭和十一年末に最後の上京をして牛込横寺町に住む。酒精に耽溺する身辺無一物の果てに辿りついた自己救済の夢を描く「弥勒」の他、三十代から四十代はじめまでの時期を扱った自伝的作品九篇。全巻完結。
目次
莵
愚かなる母の記
地球
弥勒
底なしの寝床
木魚庵始末書
方南の人
横寺日記
白昼見
死の館にて
著者等紹介
稲垣足穂[イナガキタルホ]
(1900‐77年)。小説家。大阪の船場に生れる。幼い頃兵庫県の明石に転じ、神戸界隈で育つ。関西学院普通部卒業後、上京。佐藤春夫の知己を得て「チョコレット」「星を造る人」を発表。イナガキ・タルホの名前で出版した『一千一秒物語』により注目される。宇宙的郷愁と機械的ファンタジーにみちた独特の作風による作品を書きつづけた。1969年『少年愛の美学』で第一回日本文学大賞を受賞
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感想・レビュー
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だだ
2
自伝的短編小説集だが、その中でも「菟」が最高だ。病弱な少女に出会ってからの1年ほどの出来事が綴られるが、彼女を見つめる主人公の心の苦しさや切なさがたまらない。少女に置き換えられてはいるが実際は少年(中学生)だったんだよなぁ。それを思うと主人公足穂の苦しみや哀しみがより生々しく伝わってくる。2014/09/05
feodor
2
足穂の自伝的作品ばかり集めた中・短編集。 「莵」が少年愛の話っていうのは、あとで父に言われるまで気づかなかったくらいである。「愚かなる母の記」はなかなか良かった。酒びたりになりながらの貧困生活がどの作品でも描かれるのだけれども、「弥勒」よりも「木魚庵始末記」のほうがよりデカダンっぷりを感じた。□□氏に対して、というのもあるのかもしれないけれども。「横寺日記」は、天文への関心がそこここに見えて、その感覚が素敵だった。「弥勒」でも幻想的な小説アイデアが出て来たりして、これまた素敵だった。2012/05/27
nora
1
これで足穂コレクション全8巻を読破。ベスト3は、『一千一秒物語』、『少年愛の美学』、『弥勒』ですね。2012/07/10
tekesuta
1
東京で星空を見ることができた時代なんだなあ。今では星などほとんど見えないだろう。そして星空をみる楽しみは都会の貧者のものではなくなった。 2012/06/27
oro
1
改めて天才。コレクションの中でも普通の意味で小説っぽい作品が集まっているが、「莵」「弥勒」「木魚庵始末書」「方南の人」「横寺日記」「白昼見」などは、足穂の作品の中でもベストの部類に入ると思う。2010/01/22