出版社内容情報
「洪水伝説」「イナンナの冥界下り」など世界最古の神話・文学十六編を収録。ほかでは読むことのできない貴重な原典資料。豊富な訳注・解説付き。
内容説明
世界四大文明のひとつであるメソポタミア文明。この「肥沃な三日月地帯」に栄えた文明の基礎を築いたのが、チグリス・ユーフラテス川の下流域に生活していたシュメール人であった。彼らは独特の楔形文字を使って粘土板に神話や叙事詩を刻み、その世界観は後世の周辺地域に絶大な影響を与えたと言われる。旧約聖書の「ノアの方舟」へと継承された「洪水伝説」のほか、「イナンナの冥界下り」「ウルの滅亡哀歌」など、神話を中心に16の文書を精選。他では読むことのできない重要な原典に、充実の注・解説を付したアンソロジー。
目次
人間の創造
農牧のはじまり
洪水伝説
エンキとニンフルサグ
イナンナの冥界下り
ギルガメシュとアッガ
ドゥムジとエンキムドゥ
ウルの滅亡哀歌
イナンナ女神の歌
ババ女神讃歌
シュルギ王讃歌
グデアの神殿讃歌
ダム挽歌
悪霊に対する呪文
ナンナル神に対する「手をあげる」祈祷文
シュメールの格言と諺
著者等紹介
杉勇[スギイサム]
1904‐89年。東京帝国大学文学部西洋史学科卒業。東京教育大学教授、名誉教授
尾崎亨[オザキトオル]
1944年生まれ。東京教育大学文学部史学科卒業。静岡県立大学国際関係学部元教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
59
シュメールの神話を訳した一冊。有名な「イナンナの冥界下り」が収録されているのはありがたい。ただギルガメッシュ関連はほぼ収録されておらず、個人的にはちょっと残念。そちらは翻訳されているのがあるからなのかな。シュメールの歴史や神々の関係性についてほぼ無知なまま読んだせいか、内容について少々錯綜したように感じた。神話によっては欠落が多いのもそれに拍車をかける。ただ解説部分でその点は補われているため、そちらを読んだ後だと関係性がはっきりする。未収録の神話も多いようなので、哀歌関連などはもっと読みたいものである。2016/05/11
Koning
27
やっとゲットしたのだが、これ筑摩世界文学体系1「古代オリエント集」のシュメール部分抜き出しだったorz。確かに物故されてる杉先生の仕事ってところで気づけ!って話なんですけどね尾崎先生ももう改訳するような時間も体力もなかったらしい(そして、あとがきで書かれていたけれど40年前から比較すると日本とロシアであれだけいたシュメール研究に携わろうという学生が激減しちゃってるらしく、あちゃーな感じに)。ただ、古代オリエント集がもはや入手難らしいので、手に入りやすい文庫で出ただけで喜ぶべきかもしれない。(続く2016/01/07
em
22
人間の町を滅ぼすかどうか会議する神々はギリシアの神のようだし、女神の腿から取り出した精から食べられる草が生えるところはオオゲツヒメのバリエーションのよう。洪水伝説もあるこの地は、世界中の神話をめぐる想像力を刺激してくれます。そして個人的な印象ですが、ここには笑いの要素がほぼない。現代との違いからくるものであれ、意図的な諧謔や遊び・祭祀に関わるものであれ。いずれにせよ神話には笑えるものと笑えないものがあるように思われるのは興味深い。2018/10/13
記憶喪失した男
11
1914年にまとめられた粘土板の文章を1978年に日本語訳したもの。その後で楔形文字や線文字の解読がされたので、最新研究に比べると古いはず。これは紀元前二千九百年より古くさかのぼることはないという。書かれているのは「天と冥界と女の謀殺」「都市の滅亡」「ドラゴン」であり、これらが文字が発明されてすぐに人類が文字に書きたかったことのようだ。「シュメールの格言と諺」によると、シュメール文明の頃から自由恋愛とお見合い結婚があった。「最も気高い者、父なるナンナル、あなただけが尊い」という一神教的発想の萌芽がある。2020/03/04
よこ見
9
登場する神がやたら多い。それもそのはず、複数の都市国家から出発したシュメール文明では都市ごとにその地を治める神がいたという。土着の神を認めつつも、首都を治める主神にその他の神が服属するという形を取ることで信仰と権力構造を一体化させることができ、中々合理的な考え方である。また、このような信仰は都市の興亡をそのまま神話の題材とすることにもつながり、「ウルの滅亡哀歌」もそのような作品の一つに数えられる。ウルという都市の守護神ナンナルが神の力を奪われ、ウル自体も破壊されてしまうというこの物語は、(1/2)2020/09/23