出版社内容情報
日本ナショナリズムは第二次大戦という破局に至るほかなかったのか。維新前後の黎明期に立ち返り、その根源ともう一つの可能性を問う。解説 渡辺京二
内容説明
日本ナショナリズムは、なぜ第二次大戦という破局的帰結にいたったのか。それ以外の可能性は本当に存在しなかったのか。―これが、かつて自らも日本浪漫派に熱狂した青年であった橋川文三が生涯抱え込んだ難問であった。この問いに向き合うべく、橋川は明治維新前後の黎明期へと遡行し、その起源に肉薄する。水戸学から松陰へと至る士族の流れと中間層における国学の系譜との相克。その間隙を衝くように行われた明治政府の国民統合政策。「隠岐コミューン」に託したもう一つの可能性…。日本ナショナリズムの形成過程をダイナミックに描き出す、第一級の古典。
目次
序章 ナショナリズムの理念―一つの謎
第1章 日本におけるネーションの探求
第2章 国家と人間
著者等紹介
橋川文三[ハシカワブンソウ]
1922年‐1983年。長崎県生まれ。東京大学法学部卒業。明治大学政経学部教授として近代日本政治思想史を教えるかたわら、戦後冷遇された日本浪曼派の思想をテーマに執筆活動を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
59
いわゆる概念としての「ナショナリズム」を解きほぐしたものではなく(著者は序章で格闘するが「あとがき」にあるように完成には至らず)、幕末から明治維新初期における国学の動きを中心に、日本の(右派的)ナショナリズムがどのように形成されようとしたのかを、多くの史料を引きながら論じている。副題の「神話」は2重の意味を込めてあるようで、それは日本の記紀にあるような神話と、ナショナリズム形成の過程のあやふやさのことと思う。原著が1968年と古く、ナショナリズム論としては物足りないが、幕末維新精神史としては興味深かった。2025/11/08
壱萬参仟縁
25
1968年初出。ハーツは郷土感情と祖国愛の国土感情を区別している。ドイツの地法的パトリオティスムス、イタリアのカンパニリスモ(田舎趣味)が郷土感情になるようだ(026頁)。本居宣長の政治とは、委任関係を指す御任(みよさし)の観念で説明している(130頁)。国学は外国人からはNational Learningとよばれるようだ(133頁)。福沢諭吉の生涯の目標の一つは、民衆をして真のネーションたらしめんとすることにあった(200頁)。2015/12/05
かんがく
14
ナショナリズム論の名著。序章のナショナリズムの定義についての、パトリオティズムとの比較から面白い。武士の間で流行した水戸学、中間層に広まった国学から、明治政府の成り立ちを紐解く一章と、福澤に「ただ政府ありて、未だに国民あらず」と言われた明治初期のネーション形成を描いた二章。「上からのネーション形成」という点で、フランスなどとは大きく違う日本のナショナリズムの特性。古代の天皇親政と、中世の封建的家族制度の影響が大きい。2019/12/02
勝浩1958
5
水戸学や吉田松陰の思想、国学、そして明治政府の政策、それぞれの内容について興味は尽きないのですが、それらがどうナショナリズムにつながっていくのかがいまひとつ理解できなかった。2015/09/12
馬咲
3
明治維新は日本版「市民革命」とはならず、「国家」が先に成立し、民衆を教化・統合する形で日本の「ネーション」は上から形成された。それに対し著者の関心は、幕末の日本にどのような「下から」のネーション形成可能性があったかにある。吉田松陰のような武士層では水戸学、『夜明け前』の半蔵が典型である中間層では国学が、古代日本への憧憬から封建制の枠を越えた共同体観念とその防衛意識を喚起したが、そこでは個々人の人格は天皇という具体的人格への合一によって解消され、ルソー的「一般意思」は成立し得ないという思想的限界があった。2024/04/04




