内容説明
人びとが疫病に恐れおののく古代ユダヤ社会。そこでは病人は、神の怒りを招いた罪人として、砂漠の彼方に、すなわち死の世界に追放されていた。イエスの活動とは、そして原始キリスト教の成立とは、こうした『罪』のメタファから、病人を解放するための闘いの歴史であった。そうしたイエスの闘いが、いかにアスクレピオスをはじめとする古代の治癒神の地位を脅かし、病人を抑圧していたユダヤ社会の権力機構に挑戦状を突きつけることになったか。そのドラマに迫る。梅原猛、河合雅雄、作田啓一、谷泰、三木亘とのシンポジウムも収録。多角的な視点から原始キリスト教の謎の数々を解き明かす。
目次
「病気のメタファ」とその呪い
第1部(治癒神イエスとイエスの運動―治癒神アスクレピオスとの競合と葛藤;治癒神イエス登場の地中海的背景;イエスにおける“触”のドラマトゥルギー;遊行する治癒神イエス―G・タイセンの描く遍歴のカリスマ集団)
第2部(病いと癒し―傷ついたシャーマン;砂漠の変貌―治癒神イエス誕生の構図)
第3部(治癒神イエスの誕生;キリスト教神話の構造“シンポジウム”)
著者等紹介
山形孝夫[ヤマガタタカオ]
1932年生まれ。東北大学文学部卒。同大学院博士課程修了。宮城学院女子大学教授、学長を歴任し、現在同大学名誉教授。専攻は宗教人類学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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紫羊
17
遊行する治癒神イエス…新鮮な視点。シンポジウムの参加者が豪華。河合隼雄は梅原猛に遠慮しているのか、最初ほとんど発言しない。梅原猛が喋りまくるのを谷泰がピシャッという感じで遮って、そこから河合隼雄がようやく話し出す。カリスマたちの微妙な力関係が垣間見えて面白かった。2025/01/29
みのくま
8
ユダヤ教の文脈以外でイエスを捉えなおす本書は、イエスと多神教世界の治癒神の共通する表徴を暴き出す。それは「処女降誕」「母子神」「死と再生」そして「遊行神」である事だ。そして、イエスは当時最大の治癒神であったギリシアの治癒神アスクレピオスを(象徴的に)斃す事に成功する。ただ、イエスの治癒の対象は砂漠に追放されたハンセン病患者であった。当時ハンセン病も砂漠も神から見放されたものであり、ハンセン病を治癒する事は砂漠を緑地に復する事と同義であったのだ。イエスはただの治癒神ではなく、やはり世界の救済を考えていたのだ2019/09/18
しゅん
8
イエスの教えは病人を癒やす活動と不可分だった。ユダヤの世界では皮膚病やハンセン病を「神の呪い」と考え、病人を砂漠に追放して見捨てた。故に、「砂漠」という概念は当時すさまじい恐怖の対象だった。イエスが治したのはこうした呪われた人々の病であり、その行いはユダヤ社会のタブーとの対決を意味したのだ。彼が処刑されたのは禁忌を侵したからだと考えると、受難物語がグッと受け入れやすいものになる。聖書の現代的解釈を提示すると同時に、他宗教との相対化も行う本書は、キリスト教理解のための最適の手引きとなるだろう。2016/12/21
Metonymo
1
「メタファとしての砂漠」「死と再生のドラマ」など、バビロニアの神マルドクとの共通性、オリンポスの神々やアスクレピオスなど当時の地域の救済・治癒神にとってかわってゆくイエスと使途たち。イエスの持っていた古代ユダヤ社会での不可触民への救済者・解放者としての役割を聖書、石碑、文献、神話などを、人類学、言語学、民俗学などを駆使して論じてゆくが、ハルナックら先達が、西欧社会の中でキリスト教と聖書を学問として探求する上での苦難や時代背景も同時にわかる。巻末に収録のシンポジウムでの、日本やイスラムとの違いなど、さらに2013/04/19
タケヤ
0
キリスト教が広まった理由はイエスが治癒活動を盛んに行っていたからではないか。また、その活動にはどのような意味があるのか。を考察した本。 キリスト教誕生についてほんの少し事前知識は必要。 新約聖書に書かれたイエスが人を助ける話がどのような意味を持つのか、他の神話・宗教においては人を助ける話は存在するのか。ということが書かれており面白かった。2017/05/16