内容説明
バシュラールの詩論は、地・水・火・風の四元素を核とした物質的想像力論を経て、より柔軟な現象学的な方法論によって空間・時間へと展開していく。本書ではまず、夢想は、主体の意識を残す存在としてとらえられる。そして、温かく優しいアニマ的なものによって包まれた幼少期の記憶が、大人のなかにも楽園として存在しつづけ、それが夢想の源泉となることを解明していく。幼少時代への回帰から宇宙的なコギトへと、最晩年にいたって記されたバシュラール詩学の深い境地。
目次
第1章 夢想についての夢想、語をめぐる夢想家
第2章 夢想についての夢想“アニムス”‐“アニマ”
第3章 幼少時代へ向う夢想
第4章 夢想家の“コギト”
第5章 夢想と宇宙
著者等紹介
バシュラール,ガストン[バシュラール,ガストン][Bachelard,Gaston]
1884‐1962年。フランスの哲学者。1940年よりソルボンヌ教授(科学史・科学哲学)。業績は『科学的精神の形成』など科学認識論関係のものと、詩的想像力に関するものとの二分野にわたる。後者の分野では、『水と夢』などによって地水火風の四元素にかかわる物質的想像力を究明したが、最晩年には、詩的イメージの直接的把握をめざす現象学的方法を提唱し、文学批評の新しい道を示した
及川馥[オイカワカオル]
1932年生まれ。フランス文学者
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白義
15
確固たる自我を伴った思考でもなく、完全な闇夜の世界に拡がる夢でもなく、意識を持ちながらイマージュの中にたゆたう夢想の中から存在論を展開する、想像力の原理論。幼い頃を思い出すときの甘美で切ない情感、夢想の中で物と向き合うときの、全てが新鮮で宇宙と繋がっているような、そんな感覚を人間主体の根源まで遡り、位置付けるバシュラール詩学の傑作だが、邦訳で読むには構成が悪く、幼少への夢想を考察した三章からいきなり読む方がいい。というのも、一章はフランス語の、二章はユングの初歩的知識がいるからだ2014/03/20
roughfractus02
8
原題はLa Poétique de la rêverieで詩学も夢想も女性形だ。夢想を男性形の夢le rêveと区別する著者は、ユングの元型にあるアニムス(男性性)を夢に、アニマ(女性性)を夢想に割り当て、意味を読む分節的なアニムスの読書に対して言葉の調子や響きから他の言葉へ連想を膨らませる包括的なアニマの読書を区別した。詩や散文の男性/女性名詞の組み合わせにこだわる詩人や作家の詩文を紹介する本書は、さらに男女の別や歴史の時空を曖昧にする幼時へのノスタルジーを元型的四元素が蠢く夢想の宇宙への入口に据える。2024/11/09
ラウリスタ~
4
まずは、夢と夢想の違いについて。夢想は昼間に主体的に見るほうのこと。次はフランス語の男性名詞、女性名詞についての考察。男性名詞ではあるものの、女性名詞として使う詩人やら。女性名詞でなければならないというこだわり。アニムスとアニマについて。思考と夢想みたいな関係。ラテン語の男性名詞、女性名詞であり、それに対応する性格を与えている。ラストにかけては詩の鑑賞。自分が詩人でないのが悔しいのか、詩人の作品を読み感動することで、実際に書く事に代えている。2012/02/04
なかたつ
0
夜に見る夢は夢、昼間に見る夢は夢想、とでも言っておこう。そして、フランス語において夢は男性名詞、夢想は女性名詞。その夢想をユングのアニマ、アニムスを援用して、女性形であることを意識化する。夢想は日本語的にも難しい位置づけだが、この本を読む限りでは、認識と想像の中間に位置づけられるだろうか。夢想する時、その主体は現在にもなく、過去にもなく、言わば作中世界とも言える世界にいる。そして、夢想する主体と夢想される対象は交換され、夢想される主体と夢想する対象となる。それこそが女性形としてのアニマである夢想の魅力だ。2013/09/07