内容説明
太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。フィリピンのジャングルでの逃亡生活と抑留体験を、常に一貫した視線で、その時、その場所で、見たままのことを記し、戦友の骨壷に隠して持ち帰った一科学者の比類のない貴重な記録。ここに、戦争の真実と人間の本性の深淵を見極める。第29回毎日出版文化賞受賞の不朽の名著。
目次
漂浪する椰子の実
密林の彷徨
虜人日記
著者等紹介
小松真一[コマツシンイチ]
1911年東京日本橋に生まれる。1932年東京農業大学農芸化学科卒。科学者として大蔵省醸造試験場、農林省米穀利用研究所を経て、台湾でブタノール工場を創設。1944年比島に軍属としてブタノール生産のために派遣される。敗戦と共に1946年まで捕虜生活。復員後、食品加工の企業設立。醸造技術を生かし、飲料アルコール原料の協同組合の設立。1973年脳溢血のため逝去。1974年私家版『虜人日記』出版。1975年筑摩書房より『虜人日記』出版、これにより同年の毎日出版文化賞受賞
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感想・レビュー
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優希
52
極限状態に陥った人間の本性が出ていると思います。著者は、フィリピンでの逃亡生活と抑留体験を常に一貫した着眼点でその場その時のことを余すところなく記述しています。貴重な記録として興味深かったです。2021/02/14
白義
13
山本七平の「日本はなぜ敗れるのか」の種本であり、民間企業から軍の工場に派遣されたというだけあり、実に平明で曇りがなく周りを観察している眼力に感心する。合間合間にスケッチが入るが、やはり過酷な現実を表現しながらもどこか愛嬌とユーモアがある絵で、それが文章にも反映されている。地獄のようなフィリピンのジャングルでの逃亡生活、戦後の捕虜収容所生活まで、まだ記憶が生々しい時期に書かれたにも関わらず、全部同じ調子でどこか牧歌的な雰囲気がある。ていうか、捕虜収容所に入ってからの方がのびのびしてる2014/06/19
Toska
11
軍人ではなく軍属の手による記録ということで、軍隊や戦争に対する客観的で辛辣な観察が目立つ。「戦争そのものが団体盗賊的要素を多分に含んでいるのだから、敗戦国の男が盗人となるのは、当然の帰結かとも思われる」(248頁)。フィリピンなど他所の国を土足で踏み荒らしているとの感覚は、非軍人にはいっそう強く感じられたのだろう。加えて軍の戦いぶりが無謀非合理ときては、著者が絶望するのも無理はない。2023/05/29
tama
11
他市図書館からお取寄せ 山本七平「日本はなぜ負ける」のもとになった日記。とにかく一読をお勧めします。当時の軍部、そういう計画を立てる時点でなぜ専門家の意見を聞かない?おれ凄いこと考え付いた、そりゃいいすぐやれ、俺は凄い!そういう思考なのね。村の祭りならそれでもよかろうが人の生き死にがモロに関わってるのに。だから武器・食料がほとんど残ってない地域に途中でガンガン沈められる船に人だけ詰め込んで「途中で減るのは承知」と言って送り込めたんだな。「日本軍の礼儀教育は肩章の星の数に対する礼儀」。中身にではない。2017/07/28
Yasuhiko Ito
8
この本は著者が戦場から骨壷に入れて持ち帰り、銀行の貸金庫に30年間隠し、著者の死後に私家版として親類縁者に配布したものが評判となって1975年されたというのだ。もっと早くこの本に出会いたかったと思う。山本七平氏絶賛も頷ける。とにかく必読の書だ。2017/11/07