内容説明
中世の流行歌「今様」を後白河院が編んだ「梁塵秘抄」。登場するのは遊女、傀儡子、博徒、修験僧など秩序の外側に生きる人々だった。分けても、歌と舞いを生業として諸国をめぐる「遊女」の口の端にかかったとおぼしき歌は多い。遊びの歌、男女の歌、日常の喜びや悲しみの歌、思いをいかにも生き生きとリズミカルに表現する歌の数々。「一首一首の前で立ちどまり、そのことばを吟味しながら、できるだけゆっくり作品を享受し経験する」碩学の精確な読みの向うに、不思議に明るい日本の風土が見えてくる。
目次
第1部 梁塵秘抄の歌(我を頼めて来ぬ男;遊びをせんとや生れけむ;遊女の好むもの;楠葉の御牧の土器作り ほか)
第2部 梁塵秘抄覚え書(梁塵秘抄における言葉と音楽;遊女、傀儡子、後白河院)
付 和泉式部と敬愛の祭(神楽の夜―「早歌」について)
著者等紹介
西郷信綱[サイゴウノブツナ]
1916年、大分県生まれ。東大文学部卒。日本の古代文学研究の泰斗。歴史学、人類学などの成果をとり入れた広い視野で、国文学研究に新しい面を切り開き、多くの問題を提出した
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感想・レビュー
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tyfk
6
「折口信夫『古代研究』はウカレビトに的をしぼって文学の発生を説こうとしている。ウカレビトを典型化すれば巡遊詩人ということになるが、とにかく文学の発生——文学は共同体の外側に発生する——がこれらウカレビトを除外して考えられぬのは確かで、遊女もその一端につらなっていたであろう。」p.1822024/01/03
うえ
6
碩学による一首一首の解説。「今昔物語や宇治拾遺物語などには、いわるゆ炉辺の昔話に通ずるものがまじっているが、これは梁塵秘抄に童謡がまじっているのとパラレルなはずである。昔話がすっかり子供相手の伝承になり、次第に化石化してゆくのは…江戸期以後のことであろう。それ以前の世にあっては、昔話は全体の文化の有機的な部分として存したのであって、さればこそ今昔や宇治拾遺の作者は、折りにふれてこれをまともに取りあげることをしたのである。童謡もまた中世までは、たんに子供向の歌というのではなく、流行歌の一環として生きていた」2021/12/11
吟遊
6
後白河法皇が入れ込んで集めた「今様」という流行り歌の読解を通して、遊女のあり方、放浪する巫女についてなど、社会的な諸相も読み込む。碩学の結晶させた本。2016/02/01
壱萬参仟縁
3
平安貴族の時代の、秩序の外の人が描かれる(解説及び裏表紙)。「催馬楽は貴族社会の枠内に限られていた。(略)貴族社会の古典的な声楽であり、民衆の世界とはほとんど縁がなかった」(162ページ)とは残念である。市民はまだ近代にならないと出てこないと思うが、民衆と貴族の違いが大きいと思える。また、国家も「浮浪人の存在を公然とは許さない」(181ページ)ということだ。秩序、身分の違いを感じるが、歌謡は誰のためのものか、当時の時代的背景をもう少し勉強してみるしかないと思う。2012/08/17
katashin86
2
遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん 遊ぶ子供の声聞けば わが身さへこそゆるがるれ 膨大な「梁塵秘抄」からとくに15歌を選んで言葉ひとつひとつを吟味し、作品を享受するという豊かな経験のできる本。口に出して謡うと、王朝和歌とことなる独特のリズムを感じることができる。2016/09/21