内容説明
意表を突く構図、強烈な色、グロテスクなフォルム―近世絵画史において長く傍系とされてきた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳ら表現主義的傾向の画家たち。本書は、奇矯(エキセントリック)で幻想的(ファンタスティック)なイメージの表出を特徴とする彼らを「奇想」という言葉で定義して、“異端”ではなく“主流”の中での前衛と再評価する。刊行時、絵画史を書き換える画期的著作としてセンセーションを巻き起こし、若冲らの大規模な再評価の火付け役ともなった名著、待望の文庫化。大胆で斬新、度肝を抜かれる奇想画家の世界へようこそ!図版多数。
目次
憂世と浮世―岩佐又兵衛
桃山の巨木の痙攣―狩野山雪
幻想の博物誌―伊藤若冲
狂気の里の仙人たち―曽我蕭白
鳥獣悪戯―長沢蘆雪
幕末怪猫変化―歌川国芳
著者等紹介
辻惟雄[ツジノブオ]
1932年、名古屋市生まれ。美術史研究家。東京大学大学院美術史博士課程中退。東京国立文化財研究所美術部技官、東北大学文学部教授、東京大学文学部教授、国立国際日本文化研究センター教授、千葉市美術館館長、多摩美術大学学長などを歴任。ユニークな視点で、従来あまり注目されてこなかった日本人の美意識、日本美術におけるエキセントリックな表現や「かざり」「アニミズム」などの遊びの精神の発掘を行なう
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
159
かれこれ五十年ほどまえに書かれた本である。当時ほとんど知られていなかった若冲は、いまや空前のブームとなって、江戸期を代表する絵師にまでなった。奇想は、異端ではなく主流の前衛だったのだ。その絵の数々が、ちゃんと残っていたことが何よりも貴い。残っていたからこそ、傍流は主流にもなれた。王朝文学から受け継がれて桃山文化で花開いた遊び心と、古浄瑠璃の内包するグロテスクとが相まって浮世絵がうまれた。鋭い観察眼が描く動植物の描線は、博物誌のように精緻だ。奇矯(エキセントリック)かつ幻想的(ファンタスティック)。⇒2018/06/29
徒花
95
まあまあよかった。江戸時代に活躍していた「ちょっとヘンな日本画」を描いていたアーティストたちを紹介する一冊。紹介されているのは岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳の6人。そもそも50年以上前に雑誌「美術手帖」に連載していたものをまとめたもので、文中ではこれらのアーティストたちが一般には知名度が低いとされているけれど、最後のあとがき部分などで近年になって一気にポピュラーになったことが述べられている。実際の絵画も多数画像が掲載されている。やっぱり曾我蕭白のトチ狂った絵は好き。2023/02/06
夜長月🌙
64
東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」に行くための予習として読了。展示のある8名の画家のうち6名が紹介されています。今や大人気の伊藤若冲が50年前は忘れられている奇矯の画家扱いだったのですね。「主流」の中の「主流」からは外れているからこそ自由な表現ができたのでしょう。2019/02/11
i-miya
53
2013.12.14(12/14)(つづき)辻惟雄(のぶお)著。 12/12 (p056) ◎『豊国祭図屏風』(徳川黎明会)。 人物表現のクセに強い特徴=又兵衛との関連。 =又兵衛風。 特に「上瑠璃」の人物の顔つきは、「黎明会本」とそっくり。 本人、又は同一工房の作に違いない。 2013/12/14
井月 奎(いづき けい)
49
組み立てが素晴らしいです。最初に岩佐又兵衛をだして「奇想」であるということを読者に知らしめて後、狩野山雪から伊藤若冲とつなげます。伊藤若冲を三番目に持ってきたというのがすごいと思うのです。若冲はその画業や、奇想の特に際立った水墨画を見れば「奇想」であることを理解するのは容易ですが、極彩色の鶏や海の生き物、そして仏様の絵が「奇想」だと分かりやすいように、「又兵衛、山雪と来るのだから次も大した奇想だろう」と思うように組み立ててあります。近代の日本画の成り立ちを立体的に見させてくれます。さすがの名著、です。2019/04/09