内容説明
祖国を売り、ナチズムに加担する文学を作ってきたことでフランス文学史上、数々の伝説や悪名で彩られてきたコラボラトゥールの作家たち。しかしヒューマニズムに抗して闘ったその思想はパウンド、ブランショなど20世紀の知性に大きな影響を与えた。19世紀の反近代主義者の思想や手法から始まり、中心的な運動を担ったドリュ・ラ・ロッシェル、ブラジヤック、ルバテら、戦後における継承者ニミエにいたるまで、統一した視点からファシズムと文学・思想を検証し、近代フランスの歴史観に挑戦する渾身の処女作。
目次
序 ヒューマニズム批判の禁忌
第1章 アルチュール・ド・ゴビノー―高貴なる星座
第2章 モーリス・バレス―フランス・ナショナリズム、または幕間の大活劇
第3章 シャルル・モーラス―反近代の極北
第4章 ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル―放蕩としてのファシズム
第5章 ロベール・ブラジヤック―粛清された詩人
第6章 リュシアン・ルバテ―魂の復活のためのホロコースト
第7章 ロジェ・ニミエ―生きながら戦後に葬られ
著者等紹介
福田和也[フクダカズヤ]
1960年、東京生まれ。慶応義塾大学大学院修士課程修了。現在、慶応義塾大学環境情報学部助教授。評論家。著書に『地ひらく―石原莞爾と昭和の夢』『空白の終焉へ』『作家の値うち』『悪の恋愛術』『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』などがある。『日本の家郷』で三島由紀夫文学賞、『甘美な人生』で平林たい子賞を受賞
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感想・レビュー
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H2A
15
フランスにおけるファシズムの系譜に連なる文学者を取り上げ執筆に7年を費やしたという大作。取り上げたのはゴビノー、バレス、モーラス、ドリュ・ラ・ロシェル、ブラジヤック、ルバテ、ニミエ。序文はその淵源と言われるハイデッガー。論旨にわかりづらいというか強引な個所(モーラスの章)もあるが、何といっても大変に面白い。例えばブラジヤックにとってのアンガジュマンは「青春」の実現手段だったといった驚愕する見解を述べているし、古典的教養を体現しながら同時にファシズムに心酔していた人物像を浮き彫りにしている。2013/12/07
しゅん
13
コラボラトゥール(対独協力者)の系譜を19世紀から追っていく。一人も知らない文学者で、系譜ごと消されているのを感じる。反ヒューマニズムとはどういうものかを感得する。いったん「人間は素晴らしい」という前提を払いのけて倫理や文化に触れた時にどうなるか。紹介されている作家を読みたいような気が重いような。ブラジャックは読みたいかな。2024/12/09
小谷野敦
7
もう20年以上前、福田和也が保守の論客として華々しく活躍していたころに、誰かから、「奇妙な廃墟」だけはいい本だと言われた。私は、いい本なんだろうなと思いつつ、本を買いまでしつつ、今日まで読まずに来たが、とうとう読んで、これを30歳そこそこで書くというのはすごいことだと思い、しかし22歳から29歳まで7年かかって書いたというのを読んで、まあ7年かければできるかなと思った。だがこれだけのものを書いても、ナチス協力作家が対象では、フランス文学者として大学でのキャリアは得られないのか、と思った。2024/08/22
seer78
6
ナチス占領下のフランスのコラボ(対独協力)作家たちの肖像を描く。前段として、19世紀来の根強い反ユダヤ主義の伝統から論じられている。革命に始まり近代を主導者を自認するフランスで荒れ狂った反近代主義の系譜を辿ったこの仕事は、ハイデガー、ツェラン、パウンド、ブランショらへの言及と相俟って、フランス世俗主義の欺瞞が白日の下になりつつある今こそ読まれるべき。扱われている作家たちに統一した思想や明確な目標があったわけでもなく、個々の戦いの違いにこそ意義がある。フランス文学・思想という枠組みを越えた射程を持つ一書。2016/01/14
毒モナカジャンボ
2
リュシアン・ルバテへの評の最後で鳥肌が立った。「ありていに言ってルバテの戦いはすでに終わってしまっており、かれの著書『ひとつの音楽史』は、独得の判断に驚かされる専門家をのぞけば、誰もが読者のよろこびを味わいうるような作品なのである。そしてそれはルバテにとって、やはりひとつの敗北なのだった。」2022/03/14