内容説明
現実に内在し、ときに露呈する強度の現実としての超現実―シュルレアリスム。20世紀はじめに登場したこの思想と運動について、ブルトンやエルンストを中心に語り、さらに「メルヘン」「ユートピア」へと自在に視野をひろげてゆく傑作講義。文学・芸術・文化を縦横にへめぐり、迷路・楽園・夜・無秩序・非合理性などをふたたび称揚するとともに、擬似ユートピア的な現代の日本を痛烈に批判する。いま、“幻想を超えて生きるには”。
目次
1 シュルレアリスムとは何か(シュルレアリスムという言葉;「超現実」とは何か;ワンダーランドと超現実、そして町 ほか)
2 メルヘンとは何か(メルヘンと童話とのちがい;おとぎばなしの発生;「眠れる森の美女」の例 ほか)
3 ユートピアとは何か(反ユートピアの立場から;トーマス・モアと大航海者;ユートピアさまざま ほか)
著者等紹介
巌谷国士[イワヤクニオ]
1943年、東京生まれ。東京大学卒、同大学院修了。現在、明治学院大学文学部仏文科教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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青蓮
110
「シュルレアリスムとは何か」「メルヘンとは何か」「ユートピアとは何か」をテーマに語られた本。超現実=シュルレアリスムと言うと「何か現実から離れた幻想的なもの」と解釈しがちだがそれは間違いであると指摘する。現実を超越するのではなく「極度に強められた現実」と言う今ある現実に内在されるものである。著者曰く「主観にもとづいて幻想を展開するのではなく、むしろ、客観が人間におとずれる瞬間をとられるのがシュルレアリスムの文学や芸術のありかた」だと言う。シュルレアリスムにいつてかなり勉強になった。他の著書も読んでみたい。2016/04/04
吉田あや
70
シュルレアリスムとは何かということを文学と芸術の観点に絞り、「メルヘンとは」「ユートピアとは」という角度も取り入りれ、日本では言葉の持つ意味が変容していくことで誤解されがちなシュール本来の意味を捉え直す超現実的講義。物作りの作業過程で、自分の思考とは別の場所から生まれてくるものに身を任せることや、限界まで自己を削ぎ落した客観に至ることの難しさについて考えていたところだったので、自動記述の説明に沢山のヒントを感じ、より掘り下げてシュルレアリスムを知りたいと思った。2017/07/04
藤月はな(灯れ松明の火)
63
美術に焦点を絞っているのかなと思いきや、お伽噺の不条理性、ユートピア/ディストピア小説に見受けられる共通点などの考察があったりして意外な掘り出し物でした^^特にシュールレアリスムから見た「ユートピアに近づこうとすればするほど、ディストピアに近づき、無個性になっていく」や「真の男女平等とは乱交状態である」というユートピア論は面白かったです。2014/12/06
yn1951jp
45
シュルレアリスム、メルヘン、ユートピアの発生から歴史的展開を丁寧に紹介し、誤った理解を解き、通底する概念をあぶりだす。自動記述、コラージュ、デペイズマンなどによって現実に内在する「超現実」を露呈させようとしたシュルレアリスムは、社会的な視野をもった政治的で戦闘的な運動でもあった。メルヘンが描く日常の現実に潜在している「ファンタスティック」「フェーリック」な世界。ユートピア思想が照らし出す迷路としての世界。豊富な出典が、現実と連続した別の場所にある「生」を求める「日々の魔術」の旅へと読者を導いてくれます。2015/05/24
そふぃあ
28
ブルトン『〜宣言・溶ける魚』の予習で読んだがかなり面白かった。講義を書き起こしたものだから頭に内容が入って来やすいのも良い。”連続する別の世界がある”という発想は、今はまだぼんやりとして掴みどころがなく感じるが、遠くない未来にはっきりと身を結び、その時初めてシュルレアリスムという思想は完成するのかもしれない。また日本で「シュール」や「メルヘンチック」と呼ばれているものが本来の意味からいかにズレているかがはっきりと書かれていたり、日本がまさにユートピア化しているという指摘が的を射ていてゾッとした。2022/01/24
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