内容説明
翻訳とは、二つの言語間のギャップを、いちばんのっぴきならない形で乗り超える作業だといえる。日本語らしい自然な表現を探り当てるには、単に個々の単語の処理や言葉のあやといった技術的なことがら以上に、根本的な発想の転換こそが求められる。本書はあくまでも「翻訳の現場から」という立場にこだわり、具体的な翻訳作業の分析を通して、日本語と英語の根本的な発想・認識パターンの違いを鮮明に浮かびあがらせる。「直訳」から「意訳」への劇的な変換を迫る画期的な翻訳読本。
目次
第1章 実例の研究=二題(『ソロモンの指環』;『千羽鶴』)
第2章 「もの」と見るか、「こと」と取るか(名詞中心と動詞中心;関係代名詞という大敵 ほか)
第3章 行動論理と情況論理(「無生物主語」の構文;動作主としての人間・感受する人間 ほか)
第4章 客観話法か共感話法か(日本語では間接話法は不可能である;代名詞と時制の問題 ほか)
第5章 受動態と受身(受動態をどう訳すか;受身の主観性、情況性 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬弐仟縁
10
1983年初出。受験産業でありがちなのは、英語の授業とは、英文法というものである。この間の通訳案内士1次試験では、倒置のある並べ替えで皆さんが苦労され、僕も苦労した。福沢諭吉先生も『西洋事情初編』でアメリカ独立宣言の邦訳にご苦労されている(041頁)。逐語訳ではなく、大意に近い自由な翻訳であるようだ(042頁)。昔の大学受験予備校でも無生物主語はくどいほど学び、実際enable A to Bはこの間の試験にも出てきた。現代英語教育の不備は、英作文やプレゼンテーション機会が少ないこと。発信型英語が重要だな。2013/08/29
たか
6
良書です。英語、言語系に興味ある方はぜひ。2017/03/15
niaruni
5
翻訳のための英語・日本語論というよりも、英語を解釈するための日本語論ではないか、と感じる。翻訳の場合、わかりやすく、日本語らしくすることで原文から解離し、欠落したり付加されたりしてしまう要素がある。そこに興味があり、それにどう対処しなさっているのかを読みたかったんだけど…翻訳に限らず、文芸はわかりやすく、読みやすければいいというものではないはず。翻訳に文化の紹介という側面があるなら、そのためには既存の文体では手に負えず、そのために必要に迫られて出てきたのが、いわゆる「翻訳調」だったのではないか? わかりや2013/02/03
Sleipnirie
4
無生物主語の上手な翻訳の方法とか日本語と英語について思ってることとか、ネタとても豊富なエッセイ集。2016/04/14
寝子
3
英語が主体性を持った名詞中心の〈もの〉指向である一方、日本語は状況を享受する動詞中心の〈こと〉指向という対立をさまざまな例文で説明しつつ、実は両者の間には形式的な違いはありつつも非常に似た発想の表現があり、違いは対立ではなく重点の置き方のグラデーションだという話。2019/04/09