内容説明
力の本質とは、他の諸力との関係、差異である。つまり力は、つねに内的な差異化を含み、自己同一性をかわして生成している。ニーチェの語る「“力”への意志」は、主体が“力”を欲していることではない。ディオニュソス、シャラトゥストラの形象が示唆するとおり、“力”がより強くなるように、主体の定位が破れるまでに他との関係、差異化、多数化、純粋な生成を肯定することである。「永遠回帰」とは同一なものの再来ではない。純粋に生成するものはたえず自己同一性を欠くからこそ、多様に変容しつつ、回帰してやまない。ポスト構造主義の尖鋭なニーチェ像を提出した、画期的小論。
目次
生涯
哲学
ニーチェ的世界の主要登場人物辞典
ニーチェ選集
著者等紹介
ドゥルーズ,ジル[ドゥルーズ,ジル][Deleuze,Gilles]
1925‐95年。フランスの哲学者。1970年よりパリ第8大学教授。60年代以降の言語論的な転回、ポスト構造主義の思想的文脈のなかで思索を重ね、主著『差異と反復』(1968年)などを世に問う
湯浅博雄[ユアサヒロオ]
1947年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学教授。専攻、フランス思想・文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
74
ドゥルーズによる、ニーチェの哲学についての小論と、残り3分の2はニーチェの著作の抜粋。勘所が集まっていて、ニーチェの著作に手を出すまえにこれを読むのがいいと思われる。また、一般人はこれ一冊で十分かと。『おお、ツァラトゥストラよ。おまえの果実は熟している。それなのにおまえは、まだその果実にふさわしいところまで熟していない。それゆえにおまえは、もう一度孤独のうちへ戻っていかねばならぬ。そしてもっと熟さねばならないのだ。』2022/07/04
ころこ
40
一文一文はかなり読み易い。日本語のリズムで分節が区切られているからだと思うのですが。しかし、全体の文意はとり辛いと感じました。さらに解説がドゥルーズの文章と同じテイストで書かれており、同じラインで防衛線を張っているため、ニーチェの知識が無い人には勧めません。例えば多数性と〈一なるもの〉と永遠回帰の関係は、「永遠回帰」という言葉の前半が多数性で後半が同一性なので…とか一切補助線も何も引かれていません。したがって、解説書ではありません。2021/04/19
白義
25
哲学マニアの皮肉とかそういうのを抜きに、『超訳ニーチェの言葉』より素晴らしい、一冊に詰まったニーチェ。ニーチェという思想家を、大いなる肯定、力と生成を何度でも新たに肯定する哲学者として思想、生涯、キャラクターたちを解説したドゥルーズの文章は分かりやすいだけではなく軽やかでパワーに溢れ、後半のニーチェアンソロジーはその文章選びがドゥルーズの視点から極めて的確にまとめられている。哲学を全く知らないずぶの素人ならともかく、ある程度ニーチェに予備知識があるなら、初めの一冊として一番オススメだ2011/10/12
fishdeleuze
19
ドゥルーズを介したニーチェであり,ニーチェを介したドゥルーズでもある。200頁強の小著だが,ニーチェの生涯,哲学,登場人物辞典,選集(引用)と俯瞰的に編まれている。哲学の項ではニーチェ哲学の主要な概念がわかりやすく解説されている。これだけコンパクトでわかりやすい解説はなかなかないのではないだろうか。とりわけ生の哲学,ディオニュソス的生の肯定,〈純粋に生成する〉ことの肯定についての論考は興味深く,読んでいて高揚感さえおぼえた。ニーチェの入門だけではなく,ドゥルーズの入門書としてもよい本だと思う。2012/10/29
tonpie
18
ポリティカルコレクトネスのカウンターとしてのニーチェ。 昔から直感していたのは、「自由」「平等」「人権」などの抽象度の高い普遍的価値が世界標準として普及し、伝統的文化の価値感を破壊すれば、社会はアノミー状態になり、高度に知的な人間以外は「社会」との正常な「連結」が出来なくなるのではないかということです。 高度に知的ではない、普通の人間の世界像はもっと単純なものです。善悪と正邪で天地が知覚され、日常的には「正常」と「異常」が非常に重要な感覚です。これが普通の人間の「精神の健康」の基盤です。(続く)↓2021/02/27