内容説明
開国の時期における、自我の原則と所属する集団・制度への忠誠との相剋を描き、忠誠と反逆という概念を思想史的に位置づけた表題作のほか、幕藩体制の解体期から明治国家の完成に至る時代を対象とした思想史論を集大成。『古事記伝』のなかに、近代にいたる歴史意識の展開を探る「歴史意識の『古層』」を付す。
目次
忠誠と反逆
幕末における視座の変革―佐久間象山の場合
開国
近代日本思想史における国家理性の問題
日本思想史における問答体の系譜―中江兆民『三酔人経綸問答』の位置づけ
福沢・岡倉・内村―西欧化と知識人
歴史意識の「古層」
思想史の考え方について―類型・範囲・対象
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
politics
6
武士社会から二十世紀ごろにまで渡って忠誠と叛逆という武士的なエートスが如何に変容して来たかを問う表題作、『古事記伝』や頼山陽らのテキストを題材に「つぎつぎになりゆくいきほひ」という歴史意識の解明を目指した「歴史意識の古層」、 思想史の方法論を平易に語った「思想史の考え方について」などの八つの論文が収められた氏最後の著作。個々の点では既に乗り越えられた内容のもの多いが、「古典」としての魅力は失われておらず、所謂「夜店」ものよりこちらの作品の方が私自身は好きだと感じる。何度も読み返す事になる傑作の一つだろう。2022/09/11
NICK
6
ある事物に忠誠する、というとき忠誠の仕方には二つある。一つはその事物の抽象的な原理に忠誠すること。もう一つは眼前のその事物そのものに忠誠すること。表題論文のみならず各所で丸山眞男が問題にしていたのはこのことで、前者は原理に忠実な以上現状への反逆の契機を獲得しうるが、後者は現実に対し「ズルズルベッタリ」の関係になりやすい。忠誠の対象を抽象的身体(原理)か具体的身体かに求めるのは大澤真幸の「第三者の審級」論を思い起こさせる。日本の歴史意識に「つぎつぎとなりゆくいきほひ」を見出す『歴史意識の古層』もマストリード2016/03/04
obanyan
5
やっぱり「忠誠と反逆」「歴史意識の『古層』」が難解なるも抜群に魅力的。前者は、盲目的服従として捉えられがちな「君、君たらずとも、臣、臣足らざるべからず」という封建的主従関係の中に、主君を諫め「真の君」たらんとする能動的な「諫争」の契機を見出す、画期的な論考。後者は「古事記」「日本書紀」の読解から、「執拗な持続低音」として響き続けてきた「つぎつぎになりゆくいきほひ」という日本人特有の思惟様式を抽出する。講演録も含め、「夜店」にはない、日本政治思想史研究という丸山自身の「本業」の魅力が存分に詰まった一冊です。2016/07/17
きさらぎ
5
「君は君たらずとも臣は臣たらざるべからず」という日本的忠誠を、盲従でも屈従でもなく、その下を去りえないからこそ、「叛」してでも君を正しい「君」たらしめんとする能動的な「諫争」があり得る、とする「忠誠と反逆」。「大義」を静的・超越的なものではなくその不断の変遷に見るのが日本人の思考パターンであるとする「歴史意識の古層」など8本。後書に多少触れられている通り、「もう少し展開したかったのに」という無念が垣間見えるなあと思った(苦笑)実際未完の論文もあるのだが、全体にもう少し先を読みたい、という気にさせられた。2015/10/28
馬咲
3
『忠誠と反逆』のみ。武士的忠誠が持つ、道を誤る主君を身を挺して正そうとする、「忠誠故の反逆」というダイナミズムの近代化過程での喪失に焦点を当て、日本人の自我と社会環境の間の思想的連関を探る。当時の反体制運動の一過性の原因だけでなく、日本的保守の在処を裏から探っているようにも読めた。「上からの近代化」はマンハイムでいう「自己合理化」を促進し、伝統的忠誠から反逆要素を奪いそうではあるが、そう単純化はできない。だが忠誠でも反逆でも、対象について自我が自覚的な相剋を経たのでなければ真に継続できないことは疑いない。2022/10/21